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悪魔言詞録

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140.幽鬼 ヴェータラ



 あ、あああああ、こっ、今後ともよろす、よろしく。

 そんなに緊張しなくてもいい? いや、き、緊張はしてねえよ。あ、あんまり言いたくねえんだがよ、俺はな、に、人間が苦手なんだよ。

 なんで人間が苦手かって? だって人間は恐ろしいじゃないか。悪魔よりも鬼畜なことを平気でやってのけて、それを知らぬ存ぜぬで悪魔のほうが怖いとのたまっている。そんな人間のずる賢さが恐ろしくてたまらねえんだ。

 俺は半分悪魔だから気にしなくてもいい? そうは言うけど、半分は人間ってことじゃないか。ときに悪魔や神をもだまし、自身の利益のためなら同族を踏みつけることすらいとわない人間さまの血が半分も入ってるやつの配下なんて、恐ろしくてとてもできやしねえよ。

 だからな、俺は人の死体にしか取りつかねえって決めてるんだ。生きてる人間なんか怖くて相手したくねえからな。死んでる人間に取りついて、遊ぶぐらいしかしねえと決めてるんだ。

 ええ、そんなに怖いことはない? 信頼して召喚したんだから安心して心を開いてほしい? いやいや、そんなんじゃあとても信じられない。どうせ良いように使った後、適当な合体要員にするつもりなんだろ? おまえの魂胆はもうわかってるんだ。
 だから、さっきも言ったように俺は死んだ人間しか相手にしないんだ。死んでいれば俺をだますことはしねえからな。人間の中には死体が怖いなんてやつもいるようだが、俺には理解ができないね。生きてる人間よりはるかに死んでる人間のほうが安心できる。だって何にもしてこねえんだから。

 もしかしたら、今の人間の世にはびこっている引きこもりってやつらも、こういうやつらなのかもしれねえぜ。生きてる人間が一番恐ろしいってことに気づいちまった。だから生者とは何があっても接しない。人間どもは、悪魔よりも神よりも自分たちが一番恐ろしい存在だってことにいい加減、気付くべきだと思うぜ。

 と、いうわけで俺は仲魔から外れるから。じゃあな!


作品名:悪魔言詞録 作家名:六色塔