星に願いを
今年もシャアは朝から準備に余念がない。
下に敷く毛足が長くて厚みのある毛皮。上に掛ける保温機能の高い毛布にアルミシート。腰や頭が痛くならない様にとクッションの選択も殊のほか入念だ。
スパイスと生姜を入れて作るチャイと、それを入れる為の保温性の高いポットを、鼻歌交じり(少しだけ音程がずれてるのはお愛嬌?)に洗浄して乾燥させている。
毎年観察する事が出来るものなのだが、今年は特に熱心に準備をしている気がする。
「熱心だねぇ」
俺はつい、そう声をかけた。
途端に振り向いたシャアの表情が、嬉しそうに綻ぶ。
「それはそうだろう?」
俺は訳が判らず首を傾げた。
「判らないかね?」
俺は反対側へと首を傾げなおす。
シャアは軽くため息を吐くと、身体ごと俺の方へ向き直った。
「君は寒いのが苦手だからな。私の身体の温度を少しだけ上げて、君を懐に抱えて仰向けに横たわっていれば、気兼ねなく流れる星を見つめ続けられる。殊に今年は流れる星に願う事が多いだろう? 心優しい君なら、朝までかけても願い事は言い終わらないかもしれない。となれば、私は一晩中君を抱き寄せて居られる」
そう言いながら、その白い指を俺の耳介から顎へと柔らかくなぞってきた。
その指が、シャアが俺を愛しく思っていると伝えてくる。
以前の俺なら、恥ずかしさでその指を叩き落としていた。
だが今年、世界中を襲った未曽有の感染は、様々な問題と困難を生み出したし、シャアが傍に居てくれた事がとても安心を与えてくれていた。
俺はシャアの指にそっと手を添えて、頬を寄せた。
シャアの目が見開かれる。
「そうだな。貴方が居てくれて良かったと、今年ほど強く感じた事は無かったよ。ありがとう、シャア」
ニコリと笑うと、シャアが俺の身体を強く抱きしめてきた。
「私の方こそ、君の側に居させてもらえて、至福の時を過ごさせて貰えている。ありがとう、アムロ。これからも傍らに居させてくれ。私が星に願うのは永遠にそれだけだ」
胸に押し当てられた耳に聞こえる規則的な心音に、何処かホッとする。
世界中の人々が同じように安心と幸せを手に出来る、ありふれた日常が再び戻ってくれる様に、今夜は夜通し、流れる星に願い事を言い続けよう。
でも、その前に、シャアの為にグリューワインを準備しておこうと思う。
暖かい身体が解れていられる様に・・・。
*グリューワイン:赤ワインにシナモンやクローヴ、アニスといったスパイスと、オレンジやレモン、ブルーベリーなどの天然のフルーツの香りを加えて作られたホットワイン。クリスマスシーズンには欧州ではよく飲まれるものです。