来栖なお探偵事務所 6話 隠された遺産
坂道になっており、それを下って一番下の扉の前まで来た。
「ここに遺産が」
愛冬は緊張した面持ちで扉を見つめていた。
扉は石の壁で所々に紋様があり、大きさは軽く幅三メートル、高さ五メートル以上はあり、何人で開けるものかと思うほどの大きさであった。
「ここは丁度蔵の下に当る場所ですね、まさかこんな所があったとは」
「朝谷社長、ここの窪みにペンダントを」
なおの指示に朝谷社長はペンダントを窪みにはめ込んだ。
すると、扉の紋様が光り、大きな音を立てて、扉が自動的に開き出した。
「これは…」
「凄い…」
「大きい…」
「圧巻ですね…」
愛冬、朝谷社長、なお、助手がそれぞれこう言うのも無理も無い。
扉の中には外にある樹齢数百年の桜の木よりも、更に大きな桜の木があったのだ。
推定樹齢千年は超えている桜の木を中心に、周りは円形で囲われた石と水路が繋がり、幻想的な感じがしていた。
そして、桜の木の前に石台があった。
「これが、母が大切にして来た物、ですか」
それは、指輪の形をした物であったが、朝谷社長がしていた指輪よりも価値は少なそうに見えた。
「それを見せてもらって良いですか?」
「えぇ、どうぞ、私では何も分かりそうに無いので」
朝谷社長から渡された指輪を、助手は観察した。
(……っ、この鉱石は、まさか…)
「なおさん、この指輪、持って貰えますか」
「え?いいの!」
なおは嬉しそうに近くまで来た。
助手はゆっくりその指輪をなおの手に渡した。
「朝谷社長、これからこの指輪の使い方を教えますので、これを今後どうするかはその後お任せ致しますが、よろしいでしょうか?」
「えっ?この指輪に何かあるんですか?」
「はい、自分の予想が合っていれば、ですが」
「…分かりました、お願いします」
朝谷社長の了承を取り、助手はなおにギフトを使う様に言った。
「なおさん、その指輪を嵌めた状態でギフトを使ってみてください」
「分かった…」
なおが目を閉じ、ゆっくりと目を開けたが、その瞳は赤ではなく赤黒い瞳になり、迷彩を無くしかけていた。
「助手君!これ、これヤバイよ!情報が集まりすぎて、何か未来が見えてくるよ!」
(まさかとは思ったが、本当にあったのか)
助手は今のなおの状態で確信した。
「なおさん、ギフトを今すぐ解除してください」
助手の言葉に頷いたなおはゆっくり瞳を閉じ、もう一度開くと元の瞳の色に戻っていた。
「朝谷社長、この指輪はギフトの能力を底上げするものみたいです」
「ギフト能力の底上げ?!そんな事が…」
助手の言葉に朝谷社長は少し動揺した。
「確かに、その話が本当なら、先代が大切にして来た理由がわかりました、これを世間に出せばどれ程の価値が付くかは想像もつかないし、これがもし、犯罪のギフト保有者にでも渡ったら…」
愛冬は青ざめた顔になっていた。
ギフト保有者の能力が上がる、それがどれほどのものか。
(なおさんのギフトは直感、それはなおさんが見聞きした情報を統合し、知りたい物を導き出すという物だが、指輪の効果で未来がまで見えてしまう様になったわけか)
助手が指輪の効果を見て、それがどれ程なのか直ぐに気付いた。
「朝谷社長、あの指輪、どうします?」
朝谷社長は助手の言葉に少し悩み、そして決断したのか、はっきりと言った。
「あれは、ここで壊してしまった方がいいかもしれませんね、あれがもし盗まれたりしたら、想像もしたくありませんが、危険になる事は目に見えていますし」
朝谷社長はそう言って指輪を見つめた。
「良いんですか?あの指輪は、お母様の大切な物では?」
「確かに母の残した大切な物ではありますが、危険になる物なら直ぐに壊した方がいいと思います、先代達が何故破壊しなかったのか、その理由は分からないですが」
(確かに、先代の人達は何故これを残したのか、その理由がわからない)
助手が考えていると、入口の方から足音が聞こえてきた。
「っ?!朝谷社長!この家にお二人以外にも誰かいましたか」
助手は小さい声で朝谷社長に近寄り聞いた。
「いえ、今この家には誰もいないはずですが」
「愛冬さん、なおさん…っ?!」
助手が二人を呼び、振り返ると、そこにはマントを羽織った仮面の人物が唐突に現れた。
(あの仮面は、まさかっ!)
助手は何かに気付いたのか、仮面の人物を見た瞬間、驚きの表情を浮かべた。
「だ、誰なの貴方は!」
朝谷社長の質問に仮面の人物は朝谷社長を見たが、直ぐに視線をなお達の方に視線を戻した。
「その指輪を寄越しなさい」
女の声と思わしき声が、その仮面から発せられた。
「これはダメ!朝谷社長の物なんだから」
「仕方ない」
なおがその指輪を嵌めた指を隠したが、仮面の女は一言呟いた後、なお達に近付こうとしたが。
「させません」
愛冬がメイド服のスカートから、隠してたナイフを取り出し、仮面の女に切りかかるが。
「遅い」
「グゥッ!」
仮面の女はナイフを避け、愛冬の首筋に手刀を当てて気絶させた。
仮面の女はそのままなおに掴みかかり指輪を取ろうとするが、なおは指輪を離そうとしなかった。
「いやっ!」
「なおさん!」
助手が助けに走り出したが。
「ちっ!」
仮面の女は片腕を上げて、何かを下に叩きつけると、ボフッ、と言う音と共に白い煙に二人の体は包まれた。
「くそっ!なおさん!」
助手が煙の中に入り、なおと仮面の女がいた場所に辿り着くが、そこには誰もいなかった。
(やばいっ、もし、あの仮面が想像してるやつなら)
助手は焦燥に駆られた。
「うっ、不覚を取りました」
「愛冬さん、ご無事ですか!」
「えぇ、ですが、なおさんと指輪が」
「分かっています、愛冬さん、あなたのギフト、使って貰えませんか」
「っ?!知っていたのですか!」
助手は頷きはしたが、何故知っていたのかは話す気は無いようだ。
「はぁ、こうなってしまったからには仕方ないですね、それでは使いますが、本当にこれは他言無用でお願いしますね」
愛冬はそう念を押してから、ギフトを使った。
ギフトを使った愛冬の目にも、なおと同じ深紅の瞳が、その目から覗かせた。
「分かりました、なおさんと指輪は現在ここから北の海の方に向かっています」
「海、という事は倉庫の方が可能性は高いか」
助手はそう呟くと朝谷社長に一礼をした。
「朝谷社長、すいませんでした、指輪を盗まれてしまい」
「気にしないでください、アレは貴方の落ち度でも、何でもないのですから」
朝谷社長は首を振ってそう言ってくれた。
「それより、早くなおさんを助けてあげてください」
「はい、それでは失礼します」
助手は先程までその場に居たはずなのに、一瞬でその場から消えた。
「一体彼は何者なのでしょうか」
朝谷社長の言葉が虚しくその場に残った。
作品名:来栖なお探偵事務所 6話 隠された遺産 作家名:サッカー