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優しさと苦しみは紙一重

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西の都のデパートにて。ある日の、夕暮れ時のことだった。ブルマはストレス発散に、高級ブランド用品店へ訪れていた。目移りするほど可愛らしい新作のバッグや財布、ハンカチまでをもカードで買い占め、気が済むと店の前のベンチに腰掛けた。一通りブランド物を買い占めた後のタピオカミルクティーが、堪らなく美味しい。しばらくストローを啜っていると、そこには似つかわしくない人物が急に現れ、店内へと入って行った。

「孫くん……?」

 小声でそう呼んでも悟空は気づかず、品物を物色している様子だった。やがて大きな花の形をした琥珀色の髪飾りを手に取って、財布の中をよく確認してからレジの方へと歩いて行った。ブルマはそんな初々しい光景にひとり微笑んで、ベンチへと戻った。

「ありゃ……?ブルマか?」
「……気づくの遅いわよ」

 タピオカミルクティーを飲み終え、ブルマは悟空が手に持つ紙袋を指さした。

「それ、チチさんへプレゼント?」
「へへっ……!そうなんだよ、今日、チチの誕生日でさ……」
「ふーん?……孫くんも、なかなかやるじゃないの」

 悟空はブルマの隣に座って、紙袋の中から可愛らしいケースを取り出した。珍しくブルマに褒められ、思わず顔をほころばせた。そこで特に機嫌の良かったブルマは、「惚気でも何でも聞くわよ」と、一緒に笑った。

「こづかい、ちょっとずつ貯めて、買ったんだ」
「まあ……、偉いじゃない……」
「サンキュー!」

 見比べるのは申し訳ないが、健気な悟空と比べてしまうと、ベジータにはそう言った思想や気配がまったく感じられなかった。それでも、ベジータのことを只ただ、愛してはいるのだけれど……。ブルマは天を仰ぐと、気を取り直して悟空の手を引いて、ブランド用品店へと戻って行った。

「今日、お誕生日なんでしょ?私からも何か……」
「ブルマ……、さすがにそりゃ、悪りいって」
「……気にしないの」

 悟空は頷いて笑いながら、ふと、薄紅色の髪飾りに視線を止めた。猫のモチーフをした、可愛らしい髪飾りだった。それを手に取ると、ブルマの水色の髪に充ててみせた。ブルマがショーケースに夢中になっている間に悟空はそれをレジへ持って行き、ハラハラとしながら見守った。その髪飾りが残りのゼニー全額で買える事が分かると、店員から紙袋を受け取って嬉しそうにブルマの元へ戻った。

「……あら?何してたの?」
「これ、ブルマに似合うと思ってさ」
「……孫くん」
「んんっと……、こうすんだよな?」

 悟空は袋から髪飾りを取り出して、ブルマの髪をそっと留めた。すると彼女はしばらく黙り込んで、わずかに涙腺を緩ませた。こんなにも優しくされて嬉しいはずなのに、何故か、胸がつかえるように苦しくなって。

「ありゃ?……嬉しくねえんか?」
「ううん……、とっても……」

 そう言いかけて、ブルマは指先で涙を拭った。チチへのプレゼントを真剣に物色すると、鮮やかなオレンジ色のスカーフが目に留まった。それを持ってひとりレジに向かったものの、カードを差し出した手が小さく震えていた。可笑しくなりそうな程の動揺を悟空には気づかれるまいと、必死に平常を装って。会計を済ませて悟空の方へ戻ると、ブルマは自分の荷物と引き換えに小さな紙袋を手渡した。

「……色々ありがとうね、孫くん」
「色々?って、オラこそ……」
「いいから、早く行きなさいよ!」

 ブルマに急かされて、悟空は瞬間移動で立ち去った。薄紅色に光輝く髪飾りに触れながら、今度はベジータからの贈り物が欲しいと、それが一輪の花でも構わないからと、切に願って……。優しさと苦しみは紙一重。純真無垢な幼馴染みのとびっきりの優しさに、同時に湧き上がる苦しみに、ブルマはひとり、心を震わせた。