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長き戦いの果てに…(改訂版)【1】※年齢制限なしver

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「お、俺はっ!今まで一度も弱音を吐いた事なんかないんだ。こ、こんなっ、惰弱なっ──!」
「ギルには話したのですか?」
「言える訳ない!そんなことをしたら俺は兄さんに──」
 兄さんに間違いなく軽蔑される。そんなことになるくらいなら死んだ方がマシだ。 どうして俺はあの時死ななかった?
「お前にだって……こんなことを話すつもりなんかなかった。俺は……何だってこんな……」
「ルート、お願いですから一人で苦しまないでください」
 ローデリヒは、金色の髪を優しくなでるとしっかりと抱きしめた。
「……私ではあなたの力になれませんか?」
 ルートヴィッヒが動いた。ローデリヒの胸に顔を埋めたまま、探るように背中に腕を伸ばす。
「お前は俺を……軽蔑してるんじゃないのか?……こんな惰弱な男だなんてがっかりしただろう?はっきり言えばいい……」
 ルートヴィッヒは啜り泣き、震える腕でローデリヒに縋りついた。
「そんなこと。少しも思ってはいません」
「うそだ、嘘に決まってる……惰弱な男には生きる権利なんてないんだ……」
 消え入るような声でルートヴィッヒは呟いた。
「誰がそう言ったんですか……ギル?」
 返事はない。だが大きな背中が微かに揺れた。
「そう……ですか」
 人並み外れて立派な体格の男が、自分より遙かに小柄で貧弱なローデリヒの胸に幼い子供のように縋りついているのは端から見ればおかしな姿に見えたかもしれないが、ローデリヒは少しも気に止めなかった。
「あなたは惰弱なんかじゃありません。あなただって人間なんだ……ただ、それだけです」
「言ってる意味が……分からない」
 ローデリヒは抱きしめたルートヴィッヒの髪をまた優しく撫でた。
「少しずつ、お話しましょう……一度には無理だから。あなたには時間が必要なんです」
「今……教えてくれないのか?」
 掠れた声が聞き返す。しっかりと胸に埋めていた顔をおずおずと上げて。
 額に垂れ下がった前髪と、涙に濡れて歪んだ顔が幼な子のように震えていた。
「……言ったでしょう、時間が必要だと」
 紫色の目を少し細めてそう答えると、額に落ち掛かる前髪を優しく直し、額にそっと口づけた。
「だから今日はもうお休みなさい、ルート。明日またゆっくり話しましょう」
「明日……話してくれるのか?」
「ええ、話しますとも」
 そうか、と呟くとルートヴィッヒは力を使い果たしたように倒れ込み、そのまま眠ってしまった。本当に疲れていたのだろう。相談する相手もなく、気の休まる時もないまま走り続けていたに違いない。
 フェリシアーノもそばにいたが「自分にはどうすることもできない」と言っていたのをローデリヒは思い出した。
 あの子には気を許しているのかと思ったけれど、弱みを見せることは出来なかったのですね。それとも不安がらせてはいけないとでも思ったのでしょうか。
「あいつは弟みたいなものだ、俺が守ってやらなくてはならない」と、いつも口癖のように言っていたのを思い出す。
 あの子はルートよりうんと年上なのに。ローデリヒは思わず苦笑した。
ルートヴィッヒが静かに寝息を立てているのを確かめて、ローデリヒはそっと布団を掛けてやった。
「……お休みなさい、ルート」
 これは今から始まる長い戦いの、まだほんのさわりに過ぎないのだ。