ハッピー・ホリディ
ドンドコドンドコ…ピーヒャララ…と祭囃子が辺りを包み、
道なりに露店やらが沢山溢れて温かな灯りと賑わいをみせ、
通りには魔女や狼男やミイラ男やカボチャのお化けが
わいわいきゃっきゃっと闊歩している。
手には金魚とリンゴ飴と綿菓子が……って、
「えええええーッ?!」
何だこの光景は。
叫ばずにはいられようか。無理、いられない!
和洋折衷にも程があるだろ?!
ミスマッチにも程があるだろ?!
と、俺が頭を抱えている横で、
浴衣姿の魔女がのんきに箸巻きをほおばっていた。
何故か俺とベアトだけが浴衣だった。
似合わない事もないこともないこともない。
おい、口元青のり付いてるぞ・・・
「むぅ、薄く焼いたお好み焼きを割箸で挟んでくるくる巻くとは中々面白い発想だ・・・
今度ロノウェにも作らせよう」
いや、悪魔にそれ作らせるなよ。
泣くぞ。あいつの料理の腕が。
「・・・・なぁ、ベアト・・・・」
「うむ、なんだ?」
青のりを付けたまま満面の笑顔の魔女。
可愛くねぇ。断じて可愛くなんてねぇ・・・!
というか、
「俺、何でここにいるんだ・・・?」
とたんにキョトン、とした表情を浮かべ、
漸く思い当ったのかにやりといつもの不敵な顔で笑い、
「ふ、祭りよ」
「違う。ナンかいろいろ違う」
「むぅ・・・どこが違うというのだ?立派に祭りではないか!」
ぷぅ、と頬を膨らませ無駄にでかい胸を張る。
「何の祭りかさっぱりじゃねぇかよ・・・」
縁日なのか、ハロウィンなのか、はっきりしろぃ・・・
「うぐ。そこを突くなと言うに。
だがしかし、盛り上がれば祭りであろう?掲示板でもそう言っておったぞ?」
少し決まり悪げに唇を尖らせて、かぷっ、と箸巻きの先端を咥える。
「そーゆートコから情報もってくんなっつの」
溜息の代わりに出たのは苦笑だった。
頭に「?」を付けて箸巻きを咥えてむぐむぐしている姿が可愛くない事もない。
俺よりもはるかに年上なのだろうがそれは所謂「禁則事項」ということらしく、
以前詳しい年齢を聞こうとして抉られた。
いつもより痛かった気がする。あれ絶対ぇ本気だ。
それはさておき、そんな俺よりもずっと大人なはずのこいつは何というか・・・
いつまでも子どもみたいで。
だから余計に残酷なんだろうけど・・・
って、そうじゃなくてその・・・なんだ。
正直に白状するとめちゃくちゃ可愛い。
「おーい戦人ぁ、なぁに突っ立ってんだよォ?」
っと、つい思考の渦に巻き込まれてしまったようだ・・・
見ればベアトが二、三歩前のほうで手を振っている。
「次は金魚すくいしようぜェ!・・・ったぅ?!」
こんなに人?がいるんだからそりゃあぶつかる筈だろう。
普段着なれない浴衣と下駄のせいか踵を返す際にぶつかってしまい、
バランスを上手くとれずに転びかける。
「・・・ったく。落ち着けよ。金魚すくいは逃げねぇぜ」
まぁ、結果ベアトは転ばなかったわけだが。
何故ってそりゃあ・・・
「・・・・・・気障な奴め。」
「放っとけ」
俺が、抱きしめたからだろ。
「そなたは嫁であろうが。馬鹿者。」
拗ねたように後ろ抱きの状態でツン、とそっぽを向く。
「へっ。嫁がかっこよくちゃ悪いのかよ」
嫁とはまだ認めてねぇけどな!
何というか、こう・・・男としての矜持がだな・・・
「Ep6では嫁になったではないか」
そこを突かれると痛い。
実際あれは嫁で合って・・・る・・・・
くやしい・・・!でも・・・納得しちゃう!ビクッビクッ
「でもここでは一応男の矜持を守らせてくれよ・・・」
「むぅ・・・よかろう。精々恰好良く振舞うが良いわ」
ベアトは逡巡しなんとも尊大に許可を下し、振り向くと、
「ただし、」と人差し指をピンと伸ばし、俺の顔を覗き込む。
「妾を退屈させてくれるなよ?退屈は魔女を殺すのだから」
怖い顔で俺を睨み上げるが、その目は爛々と輝いていて、
「ったく。仕様がねぇな・・・?」
俺は断ることもできずに苦笑を浮かべるのだった。
「そんじゃ、行くとしようか。il mio amore?」
ウインクをしてみせ、右手を差し出す。
「気障な奴め」
ベアトは口角を上げ、本日二度目の台詞を吐きながらそっと手を重ねた。
結局ワケのわからない祭りの中を俺はあちらこちらと引っ張りまわされ、
大量の綿菓子とお面と、カボチャのおばけのマシュマロやカラフルな卵を買わされて、
始終苦笑いでベアトの笑顔を見つめるだけだった。
楽しくないと言えばウソだけどな。
まぁ、たまにはこんな滅茶苦茶なお祭りもいいかもしれないな・・・
調子に乗るだろうからベアトには言わないけれども。