キルミーソフトリィ
できるだけやさしく、ころしてね。
熱にうかされたような瞳が、ぬらぬらと、こちらを捉えようと見ていた。奥に蠢く情欲の名は、絶望、衝動、懇願。そのどちらでもない気がする。薄く蒸気した頬の、その健康な赤さよ。色気のようななにかしらを纏い、何をしようと言うのだろう。ゆったりと沈むような、居空間に飛ばされたような違和感の中で、俺は、ひどく、惨めだった。
その目はじくじくと潤み、ゆらゆらと、まるで、意思を持ったいきものみたいに。遣る瀬無かった。相貌が俺を掴んで、ぼこぼこに殴打しているかのようだった。さあ良いと、どうぞと、はやくと、欲しているのだ。覚悟などと言う生易しいものではなくて、これはもう、運命なのだった。握り締めた、その華奢な首が艶めかしく映る。どくんどくんと大動脈の躍動。そこにつうと汗が垂れて、臆病な手を濡らすのだ。さあ、もう、良いから。
しずかで、おだやかなこえだ。なんともなしに吹く風のような。ざわめきも揺らぎもなしに、ただ、そこに在っただけのような。ああ、むりだ。直感的にそう思った、否、感じた。俺には、無理だ。あんまりな気持ちになって、その手を離した。じっとりと汗ばんだ手のひらは生ぬるい。それをただぼおっと眺めれば、そいつの、妙にひんやりと冷たい手が重なった。
良い、のに。なにが。ころしてしまっても、良いのに。、っ。でも、出来得るだけやさしくしてね、痛いのはいやだ。悪戯っ子のような、無邪気な少年のような顔で、そいつはにっこりと笑ってみせた。なんの濁りも、くすみもなかった。ただ世界を、そのままに映していた。それがとても瑞々しかったもので、俺は、そいつが泣いているのではないかと、すごくふあんになった。だから目尻を指の腹で拭ってやると、そいつは一瞬、ひどく驚いた顔をして、直ぐに、眉根を寄せて、困ったように笑った。
変なの。俺は泣いてないよ。泣いているのは、
(伸ばされた指に触れられて、はじめて、じぶんが泣いているのだと、気付いた。)