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【FGO】ポッ〇ーの日

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「斎藤さん、はい」
 目の前に差し出された細長い袋を見て、斎藤一は驚いて目を瞬く。
「今日はポッキーの日だから、あげる」
 マスターである藤丸立香が笑顔で言う。
「今回は新製品のキャラメルバター味だよ」
 エヘヘ、と嬉しそうに笑う姿は、年相応の子供だ。普段は子供ながらに似つかわしくない顔ばかりしているのを知っているせいか、それがなんだか嬉しかった。
「へぇ。そんじゃ、遠慮なく」
 斎藤は口の開いた袋からこんがりと焼けた菓子の端をつまむ。
 取り出した菓子は、黄金色の蜜がかかって固まっており、バターの香りとキャラメルの甘い香りが漂ってくる。バターもキャラメルも食べたことはあるが、随分と高価なものだったと覚えている。
 ――こんな菓子にバターとキャラメルが使えるって? しかも、一袋に何本も入ってるなんて、技術ってなァ、凄い勢いで進むんだねぇ。
 知識としては聖杯から得たが、実感がまるで伴わないから厄介だ。ただ、スゲーな、と感心するばかりだ。
「沖田さんたちとお団子食べてるの見たから、大丈夫かなって思ってたんだけど、実は甘いの平気だった? それともポッキーゲームでもした方が盛り上がる?」
 まじまじと焼き菓子を眺めている斎藤をどう思ったのか、立香が予想の斜め上のことを言ってくる。
「あのねぇ……」
 ポッキーゲームと言う言葉は、お節介にも? いや、この場合は有難いことにと言うべきか。聖杯が寄越した知識にあった。
 ってか、聖杯の知識ってこんなことまで判っちゃうわけ? 面倒見が良いんだね、聖杯ってのは。
「子供がそんなこと言うもんじゃないよ」
 こつん、と拳で軽く、優しく小突く。
「大体、大人の僕がそれに乗っちゃダメでしょ。特に今の世は」
「そっか……」
「もしかして、もう誰かとしたの……? マスターちゃん」
 大人のサーヴァントだったら、マジに引く。って言うか、流石に一発殴りに行く。ていうか、子供同士でもダメだろ。よく考えたら、子供相手にこんな如何わしい? 破廉恥な? 行いなんぞ持ちかけて良いわけがない。と言うか、誰なのだ、こんな行為を『ゲーム』などと名付けて広めたヤツは!
 立香がぷるぷる、と顔を横に振って否定したのに、ほっと胸を撫で下ろす。まったく、保護者かよ、と内心自分自身にも呆れながら。
「毎年何人か言ってくるんだけど、今年はなかったなぁ」
 立香が名前を挙げた何人かは、比較的新しいサーヴァントである斎藤ですら、立香に異常なまでの執着を抱いていると知っているサーヴァントの名前だった。おそらくサーヴァント同士でけん制し合っているのだろう。ギリギリの均衡ではあるだろうが、マスターが無事であるなら一安心だ。
「ま、とっ掴まらない内に、今日は早々に寝ちゃうんだね」
 斎藤の思惑が伝わったのか、そうでないのか。立香がいたずらっぽい笑顔ではぁい、と返事をした。
 子供は子供らしくいてほしい。そうでなくても、いずれ大きな壁にぶち当たるのが人生だ。――まぁ、今現在とんでもない壁に挑まされているワケだが――楽しく過ごせる内は楽しく過ごしてほしい。
 自分が目指したのは、結局そう言う所なのだと思う。
 女子供、と侮り、見下した向きもいないわけではない。自分たちの行為は世を正し、人を導く崇高なもの。それを無知蒙昧な女子供に理解できるはずもない。ただ我々のすることに黙って従えばいい、そう思っている奴らは確かにいた。
 けれど、少なくとも斎藤一にとって『女子供』と言うのは、彼らの心からの笑顔を守りたい存在なのだ。実は聖杯による知識のような『こんぷらいあんす』だとか『せくはら』とか『ぱわはら』とかも正直どうでもいい。笑顔を守りたいと言う気持ちが、女性や子供たちの権利や自由を謳歌することを否定していたつもりはないけれど、否定されたと思わせたかも知れない。それでも。その笑顔のために、自分の全てをかける意味があったと今でも思っている。
「んじゃ、素直に頂きますか。僕、昨今の菓子の類は初めて食べるんだよね」
 斎藤はそう言うと、手にした菓子を齧る。噛み砕くだに、口の中に塩とバターのこってりとした香りが広がり、それと共にほろ苦くも重甘い味がねっとりと広がる。総じて。
「……あまい……」
 バターもキャラメルも食べたことがないではないが、自分の知る味とは随分違う。思わず口にした言葉に、立香が声をあげて笑った。
「今度は、あんまり甘くないやつにするね」
 そうしてください、と思いながらも、立香の屈託のない笑顔にまぁいいか、と思う斎藤一なのであった。

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作品名:【FGO】ポッ〇ーの日 作家名:せんり