Detective ~a piece of cake
高級そうなソファに座っている探偵の前に、一切れのケーキを置く。
パッチリと猫目を開いた探偵が不思議そうに見上げてくるので、黛は事情を説明することにした。
「お前、今日が誕生日らしいじゃねえか。
それで、これを渡しておくように言われた」
大家お手製の林檎のケーキを指して伝える。
今晩の飯は大家が腕をふるってくれるそうだ。そう言い足して、ケーキの隣に淹れたばかりの紅茶も置いた。
「そういえば、今日はオレの誕生日でしたね。
あとで、実渕にお礼を言っておかないと」
たった今まで自分の誕生日のことなど忘れていたようで、探偵はまるで他人事のように言う。
「黛さんも、ありがとうございます。
紅茶いただきますね」
そう言って、温かい紅茶に口をつけた。
「おー……。ま、誕生日おめでとさん。
ケーキだが、ホールで貰ってるから足りなければ言えよ」
今日くらいはサービスで給仕してやるよ。心の中でそう付け足して、黛も自分の紅茶に口をつける。
探偵がフッと笑って、「その前に」と小さく口を開いた。
「ケーキもいいですが、まずは先ほど依頼された事件の全貌を説明しましょう。
ああ。紅茶が冷める前に終わらせるので、ご心配なく」
「は!? あんな難解な事件、もう解けたのかよ?」
黛は驚いて問い返す。
「ケーキを食べるより簡単な謎でしたよ?」
赤い両目を柔らかく細めて、探偵は優雅に微笑んだ。
作品名:Detective ~a piece of cake 作家名:紘史