ドラクエパーティーのとある風景
前から3番目のククールが不機嫌そうな顔でエイトを睨み付けた。
「いったいいつまで続けるつもりなんだ」
「何が」
「何がじゃねーよ…いつまで続けるつもりなんだって聞いてんだ。」
ククールは地に剣を立てると、疲れ果てた風にハァ、と溜息をついた。
周りは広大な大地。見上げれば果てしない青空。
鳶が穏やかに飛ぶその下で、エイトたち四人は傷だらけになりながらひたすら不思議な行動を繰り返していた。
朝も早くに街を出るといきなりエイトがルーラを唱え、適当な場所で地図を片手に宝箱を探し始める。
ひととおり見つけたところで錬金釜がチーンと鳴り響き、
音と同時に馬車へ急ぐと、出来立てのチーズと入れかえに粉とミルクをまとめて釜に突っ込んで。
戻ってきたかと思ったら今度は馬車もろともその場をぐるぐるぐるぐる。
ぐるぐるぐるぐる。
ひたすらぐるぐるぐるぐる。
そうやって回っていると、やがて気配を察知したモンスターが襲ってきて。
戦闘。
まずはククールが火炎斬り。
続いてゼシカがイオナズン。
それからエイトがギガスロー。
最後にヤンガスが死神の鎌。
倒したらまたぐるぐるぐるぐる。
ぐるぐるぐるぐる。
ひたすらぐるぐるぐるぐる。
やがてモンスターが以下略。
まずはククールが以下略。
倒したら以下略。
そうしてぐるぐる回っていると、後ろからチーンと間の抜けた音がして。
音と同時に以下略。
戻ってきたかと思ったら以下略。
ぐるぐるぐるぐる。
ぐるぐるぐるぐる。
そうして一日中ぐるぐるしている最中、ついに前から3番目のククールが不機嫌そうな顔でエイトを睨み付けた。
「今日も。昨日も。その前もその前もくるくるくるくる同じ場所を回り続けて
こんな事いったいいつまで続けるつもりなんだ…」
「あ、ククールべホマラー」
「お、そうそうベホマラー。って人の話聞けよ!だいたいベホマラーのしすぎでもうMP残ってねぇよ!」
「あたしもイオナズンのしすぎでほとんど残ってないわ。」
「あっしはまだ少し残ってるでがすよ。」
「んー、じゃゼシカが危ないからベホイミかけてあげて。ククールは…HPだいぶ減ってるけどホイミでいいや」
「ホイミでいいやってなんだよ。って話聞けよ!」
「ゼシカは次からこの杖使ってね」
「聞け―――――!!」
さらりと無視するエイトについにククールがキレた。さすがのエイトもこの音量は無視する事ができず、
何、とまるで今初めて聞いたかのようにようやくククールに向き返った。
「おまっ…超絶イケメン聖堂騎士のこの俺に何度もノリ突っ込みさせやがって。
だからな、いつまでこんな奇妙な事を続けるつもりだって聞いてんだ。どこを目指すわけでもなくただぐるぐるぐるぐる…」
「ククール今レベルいくつだっけ?」
「何だ急に……えーと…今35だったか……」
「そういう事は40になってから言ってください。はい出発」
「はいすいません。ってちょ、ちょ待てちょっと待て!!」
とっとと話を終了させて歩き出そうとするエイトを、ククールは黄色いすそをひっつかんで何とか止めた。
「何ですかレベル35」
「レベル35って言うな……そうか分かったぞ。要するにお前は俺達のレベルが40以上になったら次の目的地に向かうつもりなんだな?」
「そうですよレベル35」
「………………。何だよ、それならそうと言ってくれれば……次は40まで上げないと行けない場所なんだな?」
「いや、別に40まで上げなくても行けるんだけど、出来れば苦労せずに中ボスひねり倒したいから。
えーと、錬金釜は……あーもう、ずっと立ち止まってたから全然出来てない」
こいつひっでえ……。
ククールはこんなひっでえ人がリーダーだと思うと内心青ざめた。
それからこの御一行がレベル40になるまでぐるぐる回り続けたのは言うまでもない。
作品名:ドラクエパーティーのとある風景 作家名:須賀