トラ
英語のタイガーに似た名前といい、がっしりとした体格といい、火神にはトラという形容がよく似合う。けれど、その彼がバスケットゴールに向かって跳ぶ姿は、ネコ科の動物の跳躍を超えて、鳥が空高く舞い上がる様を思い起こさせた。
「猛獣みたいに強い上に空まで飛べてしまうなんて、チートですよね」
黒子は羨望と嫉妬を込めて、火神を見る。
「翼が生えたトラがいるのか?」と馬鹿な質問をされたので、「鬼に金棒と同じような意味のことわざですよ」と呆れて返すと、帰国子女の火神は「プロバーブか」とやけに流暢な英語混じりに答えた。
「じゃあ、黒子たちが翼なんだな」
「はい?」
突拍子のないことを言う火神に、短く訊き返す。
「だって、そうだろ」と、火神は無邪気な声で答えた。
「みんながいるから、オレは高く跳べるんだ。
黒子っていう相棒がいるから気持ちよくアリウープができるし、失敗しても取り返してくれるチームメイトがいるから、メテオ・ジャムみたいな難しい技にも挑戦できる。
自分ひとりだったら、あんなに高く跳べねえよ」
恥ずかし気もなく言ってのけて、火神は屈託なく笑う。
その曇りのない笑顔に、自分たちのエースの眩しさを再確認した。