たんぽぽ
さつきが、ふぅっと息を吹くと、たんぽぽの綿毛が一斉に空に舞い上がった。
「やったあ! 一回で全部飛ばせたよ、大ちゃん」
得意げに茎だけになったたんぽぽを振り回して、さつきは嬉しそうに笑う。さつきは、一息でたんぽぽの綿毛を全部飛ばせたら恋が叶う、という占いを本気で信じているらしかった。
「これで私の恋は叶うって証明されたよね。ね、大ちゃん」
「知らねーよ。つか、お前、学校に好きな奴いんの?」
「いないけど。でも、きっとそのうち現れるよ。私の王子様」
うっとりとした目で、さつきは公園の上空を舞う綿毛の群れを見上げる。
幼馴染のオレが言うのもなんだが、さつきはモテる。オレ達の通う小学校にもさつきに惚れている奴はたくさんいるのに、そいつらはさつきの眼中にないんだな、とそいつらを不憫に思った。
「さつきの思う王子様って、どんな?」
「んー。大ちゃんみたいに子供っぽくなくてー、大ちゃんと違って紳士的でー、でもやる時はやるカッコいい人! とか?」
「オレと比べて言うなよ。てか、シンシテキってどういう意味」
「あー。国語も出来る人がいいなー」
読解力があって、女の子が欲しい言葉をくれるような。
オレの言葉を無視して、さつきはそう続ける。ドッカイリョクという言葉の意味も分からなかったけど、どうせまた無視されるだけだと思って訊くのはやめた。
「中学生になったら会えるかな。そんな人に」
「さーな。オレは中学に入ったら美人で巨乳のオネーサンに会いてーな」
「大ちゃん、サイテー」
くすくすと笑って、さつきはまたたんぽぽの綿毛を一本摘む。ふうっと軽く吹くと、今度は綿毛がいくつか茎に残った。
「残念。大ちゃんは美人のお姉さんとは両想いになれませーん」
「ハァ? ふざけんな、勝手に決めんなよ」
「だって、綿毛残っちゃったもん」
ほら、とさつきが綿毛が残ったたんぽぽを差し出す。
オレが残りの綿毛を吹き消してやると、オレの息を顔に受けたさつきが可笑しそうに笑った。