犬
親友に似た顔をした小型犬の頭をそっと撫でる。かわいいっスね、と褒めてやると返事するみたいにワンッと吠えた。
「大型犬と小型犬の戯れみたいです」
小犬と触れ合う黄瀬を見ていた親友――と黄瀬のほうは思ってる――の黒子が、無表情で呟く。黄瀬はええ~、と抗議の声を上げた。
「黒子っち、オレは大型犬じゃないっスよ」
「君はゴールデンレトリーバーです」
黄瀬の反論を無視して、黒子はそう断定する。
いじられているだけだと分かっているので、「ひどいっスよー」と泣き真似をして軽口を返した。こういう時に下手に出て誤魔化してしまうのは、黄瀬が気の強い姉二人を持つ末っ子長男だからかもしれない。
「良かったですね、2号。大きいワンちゃんに遊んでもらえて」
黒子が小犬の頭を撫でると、小犬は嬉しそうにワンッと応える。
黒子が部活仲間と一緒に飼っているこの小犬は、あまりに黒子と顔が似ているために、黒子の下の名前であるテツヤを冠して2号と名付けられていた。
「大きい猫さんは遊んでくれませんもんね」
「……それって火神っち?」
「はい。彼はトラさんなので」
黒子の部活の相棒である火神は、トラのような迫力と野生の勘を持ち合わせていることから、よくトラに例えられる。下の名前が大我でタイガーを思わせるから、猶更だ。
「火神っちは犬が嫌いなんスか?」
「嫌いなわけではないと思います。ただ怖いだけで」
「同じことじゃないの?」
「火神君は噛まれてから犬が嫌いになったと言っていました。噛まれる前は嫌いではなかったと思います。そうでなければ、怯えながら2号の面倒を見るなんてことしないはずです」
ね、2号、と黒子は小犬に同意を求める。
そういうものかな、と黄瀬は首を傾げた。中学時代のチームメイトの緑間は引っかかれてから猫が嫌いになったというが、彼にも同じことが言えるだろうか。……いや。緑間は何があっても猫の面倒なんて見なさそうだ。つまり、逆に言えば、火神はそういうことなのだろう。
「少しも好きでなかったら、お世話なんて人任せにして構いもしませんよ、緑間君みたいに」
黒子も同じようなことを考えていたと分かって、黄瀬は小さく噴き出す。
そうっスね、と答えて、尻尾を振る小犬の頭を撫でた。