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 虹村という自分の苗字に合っていると思って使っていた虹色のリストバンドは、アメリカに居を移してから身に着けるのをやめた。こっちでは、虹色のグッズを身に着けていると、あらぬ誤解を受けるからだ。別にそういった人達を否定するつもりはないが、自分が当事者のように勘違いされては自分も相手も困る。
 そういうわけで、今はそのリストバンドは日本にいた頃の思い出の品に埋もれて眠っている。今後使う予定がなくても、なんとなく捨てる気にはなれなかった。虹色は自分を表す色。それと同時に、ずば抜けた才能を持つ後輩たちを表す色でもあった。

「聞いたぜ。あのジャバウォックが今、お前の国で試合してるそうじゃねえか」
 ストバスの出番待ちをしていると、現地で仲良くなったストバス仲間たちに声を掛けられる。
「対戦相手の日本人、お前の知り合いか?」
 興味津々で尋ねてくるマイケルに、虹村はとりあえず、んー、と曖昧な返事を返した。
 返答の仕方に迷ったのもあるが、聞き取った相手の英語を日本語に変換して、自分の日本語を英語に変換するのに時間を要したのもある。本当は、もっと素早く受け答えが出来たらスマートなのだが。
「元々の対戦相手は、中学時代に見たことがある人もいれば、全く知らない人もいるな。全員、オレの一つ上だ」
「見たことがあるってことは、知り合いってほどではないのか?」
「ああ。――ただ、日本人の側がメンバー変えて再戦申し込んだのは知ってるか?」
「知ってるよ。昔こっちにいたタイガがいるメンバーだろ」
「そう。そっちのメンバーは、大半オレが率いてたチームの奴らだ」
「マジかよ!」
 その場にいる奴らが、急に色めき立つ。
「じゃあ、シュウゾウくらい強いのか?」
 爛々とした目で顔を覗いてくるマイケルに、虹村はにやりとした笑みを見せた。
「オレぐらい、どころか、全員オレより強ェよ。オレが率いてたなんて言っても、それはオレがあいつらより年上で、先にチームにいたからっつうだけ。こっちと違って日本は……その……年下より年上が偉いみたいなとこあるからな」
 虹みたいにカラフルな名前の後輩たち――赤司、青峰、緑間、紫原、黄瀬の顔を思い浮かべる。年功序列や縦社会といった英語が出てこなかったので、そこは簡単な言葉だけで説明した。
「タイガが電話で理解できねえって言ってたやつだ」と誰かが笑う。
 さっきから話に出ている火神大我は、幼少期をここらで過ごしたという日本の青年だ。虹村が渡米するより前に日本に戻っていて、今度の試合で、虹村の後輩たちと一緒にアメリカの最強ストバスチーム・ジャバウォックと対戦する。
 大方、今頃になって日本にいるジャバウォックの話が出たのは、彼らの再選相手の一人が火神だったからだろう。加えて、日本には今、少し前までこの界隈にいた火神の兄貴分で、虹村がアメリカで最初に仲良くなった日本人の氷室辰也もいる。そっちから話を聞いた可能性もある。
「シュウゾウより強いなんて言っても、日本人だろ? ジャバウォックに泣かされねえといいけどな」
 仲間の中でも一番冷静なトムがつぶやく。
 心配しているとも見下しているとも取れる発言だが、真っ当な意見だとは思った。ジャバウォックの素行の悪さは誰もが知っているし、大概の日本人はアメリカ人にバスケで勝てない。……けど。
「ナメんなよ。あいつらの強さはオレが一番知ってる。ジャバウォックくらい軽くぶっ倒すから、楽しみに待っとけ」
 強気な発言を冷やかすように、何人かがヒュウッと口笛を吹く。
 なんなら賭けるか? と仲間の一人に訊かれたが、それはさすがに断った。賭け事に手を染めたくなかっただけで、賭けに勝つ自信はあったけれど。

 手の中のバスケットボールを弄びながら、日本がある方角の空を眺める。
 ――雨の後に虹は出る。泣かされた先輩たちの無念は、お前らが晴らしてやれよ。
 我ながら気障な言葉を思いついて、虹村は一人ほくそ笑んだ。
作品名: 作家名:独楽