黒籠アリス10
ウミガメモドキは「ああ」と声を漏らし、黒子のほうを見て尋ねる。
「お前さんは、海の底に暮らしたことがないんやろ? そいで、ロブスターに会ったこともないわけやな」
「はい。そうです」
「ほんなら、楽しいロブスターの社交ダンスも知らんのか」
「そうですね。……どんなダンスなんですか?」
黒子が尋ねると、ウミガメモドキとグリフォンがダンスの解説をしてくれる。
「ロブスターなしでもできるやろ」
終いにはそう言って、目の前で実演してみせた。
「もう一つダンスをしましょうか。それとも、ウミガメモドキさんに別の曲を歌ってもらいますか?」
「なら、歌をお願いします」
ウミガメモドキが深く息をつき、『ウミガメスープ』を歌い始める。
「コーラスの部分を、もう一回!」
グリフォンが声を張り、ウミガメモドキが繰り返し歌い始めたその時、「裁判が始まるぞ!」という声が遠くから響いてきた。
「こっちです!」
歌が終わるのも待たずに、グリフォンが黒子の手を取って走り出す。
「何の裁判ですか?」
走りながら黒子は訊いたが、グリフォンは「こっちです!」としか答えない。
ますます足を速めたから、風に乗って追ってくるウミガメモドキの歌声も、次第に微かになっていった。