Detective ~Shrove Tuesday
キッチンから甘い香りが漂ってくる。
黛は読んでいた本に栞を挟み、匂いのする場所へと足を向けた。キッチンに入ると、フライパンをふるっている探偵と目が合う。もう少し待ってくださいね、と探偵が目を細めた。
「パンケーキ焼いてるのか?」
「ええ。――今年はアメリカ風に厚めにして焼くことにしました。
なので、ホットケーキと呼んだほうがいいかもしれませんね」
「なんで、また?」
黛は首を傾げる。
「今年のパンケーキ・デーは黛さんの誕生日と重なっているので、黛さん好みにしようかと思ったんです」
にこりと笑って、探偵はフライパンの上のパンケーキを空中でひっくり返した。
「お好きなラノベのヒロインが、厚めのパンケーキを重ねて、蜂蜜をたっぷりかけたものを食べていたでしょう? それを真似してみようと思いました。……メープルシロップではなくて、蜂蜜がいいですよね?」
笑顔を崩さないまま、探偵が確認してくる。バカにしてるだろ、と問うと、いいえ? と小さく笑った。
「純粋にお祝いしたいんですよ。――バターものせますよね?」
「……のせる」
訝しく思いながらも、黛は素直に答える。
なんの気まぐれか分からないけど、ここは大人しく祝われておくか。そう結論づけ、黛はパンケーキに合わせる紅茶を淹れ始めた。
作品名:Detective ~Shrove Tuesday 作家名:紘史