消えてしまう前に
あやめは息を切らして逃げる。制服のブレザーにかぶさった赤いマフラーが、うしろにはたはたと靡(なび)く。
レイの声がうしろに遠くなってきたところで、あやめはふと、脚を緩めた。
「ケンちゃんがこっちねえ、僕はこっちに作るから」
子供公園の通りで、あやめは完全にその脚を止めた。
「手~冷たくなったら、手袋かしてあげる。僕のはぬれないやつだから」
その二人の子供は、雪で埋まった砂場に、まだ小さな雪の山を作ろうとしていた。
一所懸命に、川や、小山を作っている。
「おわっ!」
後頭部に柔い衝撃を受けた時には、視野の両脇に細かい雪の塊が砕け散っていた。
「やっほ~い!」
「つめっ…て~なこんにゃろ~!」
あやめとレイはまた走り出す。今度はあやめがレイを追いかけていた。
学校鞄を振り回しながらレイは逃げ、あやめはすくい上げた雪を投げながらでレイを追いかける。
その道の先にはカラオケショップがある。プリクラのある行きつけのゲームセンターもあった。
いつもと何も変わらない一日に、二人はいつもと何も変わらずに馬鹿騒ぎする。
いつもと何も変わらない明日が、いつもと何も変わらずに訪れるのだろう。
「スティッチやってよ」
「すてぃっつ!」
「今野先輩バンザ~~イ!」
「い~みわっかんないからっ……うおっ、さみ~!」
あやめは頬を涼めていった冷たい風に、温かなジャンパーを連想していた。
いつもと何も変わらずに、あやめとレイはカラオケショップの自動ドアを開いた。
建物の中から、暖かな空気が二人を迎える。
いつもと何も変わらずに、本格的な冬が始まろうとしていた。
二千二十二年四月十日~完~
あとがき
作タンポポ
今回は筒井あやめさんが主演の短編小説でしたが、この作品もタンポポ自身とても気に入っています。テーマとなった『恋』や『違和感』や『雪』なんかを常に意識して書き進める時間が、とても楽しめました。
ここで語るべきはあれでしょうね、あやめとレイの仲良しっぷりでしょうかね。これも書いていて最高に楽しみました。
現在もコロナウィルスの時代真っただ中なのですが、作品の世界では除外させて頂きました。この時代に、実際にコロナウィルスで身体を休めている乃木坂のメンバーが沢山いるからです。この世界で伝えたい事を優先させて頂いた次第です。
作中に出てくる大ちゃん、大好きです。純粋だった頃を思い出しながら必死に書きました。タンポポ的に大好きなシーンは、あやめと大助の『ゆびきりげんまん』のシーンですかね。全体的に広がる白銀の世界観も大好きでした。
また、良き作品を生み出していこうと思っております。それでは、また次の作品でお会い致しましょう。タンポポでした。
完