相碁井目
棋力の高い者同士で行う将棋に、まぐれやラッキーはない。それぞれの実力差だけが、盤上にはっきりと現れる。
「投了、なのだよ」
赤司との対局で頭を下げるのは、いつも緑間のほうだ。将棋でもテストでも、赤司はいつだって涼しい顔をして緑間の上を行く。
「やはり、緑間との対局が一番楽しいな」
盤面を眺めて呟く赤司の顔に、緑間は訝しむような目を向ける。視線に気づいた赤司に、にっこりとした笑みを向けられた。
「この前、将棋部の部長に対局を申し込まれてね。受けてみたんだが、緑間ほどの実力はなかったんだ」
「……そうか」
将棋部の部長なら、緑間も知っている。バスケ部員の赤司を侮って、手を抜くような人間ではなかった筈だ。
それでも、まだ人事は尽くせていなかった。足りなかった。将棋部の部長も、自分も。この男と対峙する上では。
「次はオレが勝つのだよ」
眼鏡のブリッジを押し上げ、もう何度目かの勝利宣言をする。
「楽しみにしているよ」と、赤司はやはり涼しげな顔で答えた。