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一球入魂

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 一球入魂という造語は、元は野球において使われる言葉だ。サッカーやバスケのように、敵味方でボールを奪い合う球技ではあまり使われない。
 しかし、シューターである緑間にとっては別だ。緑間はシュートを打つ際、文字通り一本一本に魂を込めている。
 フォームを崩されなければ、百発百中でシュートを決める自信が緑間にはある。だが、逆を言えば、フォームを崩されれば外すことだってある。味方からパスを受けなければ、万全の状態でシュートを打つことは難しい。それが、野球の打者とバスケのシューターの違うところだ。
 ――そのシュートにはいくつか欠点がある。
 前回の試合で、旧友に指摘された。
 その第一は、緑間がパスを受けてすぐシュートする為には、パスをする味方が左利きの緑間に合わせなければいけないことだ。パスコースが限られているのだから、勘の良い敵なら止めることは容易い。
 ライバルに「必ず右手でくると分かっているダンクなど簡単に止められる」と豪語して置きながら、自分がこれでは情けない。シュートの精度にこだわり過ぎて、パスをくれる味方への配慮を欠いた自分の落ち度だ。それが分かっただけでも、あの敗戦の意味は大きい。自分が一球一球に魂を込められるのは、チームメイトのお陰だと気づけた。
「うぃーっす。遅れましたー」
 軽薄そうなノリで挨拶しながら、高尾が体育館に入ってくる。
 思ったより委員会が長引いちゃったと言い訳しながら、緑間の近くでストレッチを始めた。
「さっさとするのだよ。お前がいないと、連携技の練習ができん」
 相棒と認めた男に憎まれ口を叩いてから、バスケットボールをゴールに放る。
 利き手と反対の手で打ったシュートは、わずかにリングに触れてからゴールネットを潜り抜けた。
作品名:一球入魂 作家名:独楽