眩しくて遠い
それでもよく分からない縁みたいなものは確かに存在していたのだと、今なら言えるかもしれなかった。
礼がしたい、と近藤から持ちかけられたとき、報酬なら受け取るけど、と返した。今はこんな状態だからまた後日連絡する、と言われて、別にいいけどよ、と周りを見回す。
ほとんどが瀕死に近い連中ばかりが運び込まれては手当てされていく現場は見ていて気持ちのいいものではなかったけれど、その光景は確かに銀時の記憶の中にあるものと一致したし、そこに存在する絆が憎らしく、それでいて羨ましく、いとおしかった。
「待たせているんだろう」
呆けていた銀時の耳に届いた近藤の声は、幾分か優しく、それでいて疲労に満ちていた。だけど銀時には近藤の言葉がいまひとつ分からずに、気の抜けた声を出した。すると、新八君とチャイナ娘だよと苦笑が返ってきた。
ああ、と銀時は頷いた。それから我に返ったように、立ち上がり近藤に詰め寄った。
「おい、あいつら怪我してたか? つかどこで待たせてあるんだよ茶のひとつくらい出してやってんだろうな」
「・・・外で待ってるそうだ。怪我は・・・目立つような傷はなかったと思うぞ」
「待遇悪ぃな・・・ってそうも言ってられねぇか」
そう銀時がため息をつくと、近藤は周りを見回しながら苦笑した。手当されてゆく者たちに視線を向けながら、そうだなぁ、と苦笑をかみ殺して。
「たくさん死なしてしまったからな。いらない犠牲ばかりが出た。俺ぁ不甲斐無いヤローだが、こいつらがいて何とかやってきたんだ。それを自ら失くすなんざぁ・・・。」
奥歯を噛み締めるように近藤は何かに耐えながら言葉を濁した。そんな近藤を見ながら銀時はやはり憧憬のような、憎しみのような、いとおしさを感じた。あれは、もう戻らない昔の話だというのに。
銀時は少し自嘲を浮かべて、踵を返した。手をひらひらさせながら、軋む廊下を歩き出す。
「失ったものは多くても、得たものはあるじゃねーか。ま、擦り切れた慰めなんざいらねーわな。切られたはずの糸は繋がってるんだしよ、いいんじゃねーの」
「お前のは、切っても向こうから繋ぎなおしそうな勢いだがな。羨ましいぞ、万事屋」
朗らかな苦笑とともに返ってきた言葉に銀時は歩みを止めた。何事、と廊下の通行人が銀時を気にしながらも忙しさに足を止められずに横を通り過ぎた。
近藤は止まってしまった銀時を不思議に思って、声をかけようと近づこうしたが、縁側のちょうど屯所の入り口の向こうにいる、銀時を待つ人間をぼんやりと目にして、少し見開いてから悲しそうに目を細めた。
そうしているうちにそそくさと銀時は近藤の前から消えた。目立つ白は屯所の入り口をふらりと抜けて、すぐに見えなくなる。
「あんだけ説教しておいて、あいつ、自分の糸の強さには気づかないのか」
近藤は慌しい喧騒を見つめながら、憧憬と憎しみといとおしさの感情をこめて、今日はじめて、空を見上げた。
眩しくて遠い
お題配布元:不在証明さま