まだ見ぬ地平へ
「これは、なんだ……」
初めて目にする「それ」は、とても奇妙に思えた。滑稽と言い換えることもできただろうか。
うら若き少女たちがドタバタと紙風船を追い、大声を上げながら押し合い圧し合いし、薙刀を振るい、羽子板や大団扇を振りまわし、うるさいほどにタンバリンを打ち鳴らす姿は優雅とは程遠い、淑女がとても人前に見せる姿ではないと思っていた。しかし、いつしか彼女は「それ」を食い入るように見つめていた。
「雷夢雷叶!」
何より、コートの中央で薙刀を振るう姿の美しから目が離せなくなっていた。薙刀だけではない。大団扇を抱えた少女はそれを勇壮に扇ぎ、羽子板を手にした少女は恐れを知らぬかのように薙刀を受け止め、タンバリンを持った少女が踊りながら打ち鳴らし紙風船を割る。彼女は目の前で繰り広げられる光景に心を奪われていた
。
これはなんだ、こんなスポオツが世の中にあったのか。私にもできるだろうか?私もやりたい。あのコートに私も立ちたい。
そのスポーツの名は「スカッピー」。女子教育の第一人者、杏美林ウメノが考案した女子のためのスポーツだという。
早速、少女はチームメイトを集めるべく行動を起こすも、その名前の奇抜さに敬遠され、上級生となってからは新入生を誘うも誰にも相手にしてもらえないまま、ついには最上級生となってしまった。それでも、彼女は諦めなかった。
そして、少女は1人の転校生と出会う。
銀河景ツルギ。1年生。
嘘か誠か知らぬが、杏美林ウメノから直々に手ほどきを受けたというその少女とチームを作り上げ、少女は夢にまでみたスカッピーのコートに立ち、ツルギと最強と呼ばれるチームを作り上げ、その後の4年間、ツルギとその座を守り続けるのであった。
「我らはオリンピックへ行くぞ」
初めて会った時、ツルギのその言葉は夢でしかないと思っていた。しかし今、その言葉は夢ではなく現実味を帯びてきていた。
オリンピック。世界中の運動選手が集まる祭典。その晴れ舞台に自分が立てるかもしれない。いや、立つのだ。
雪之丞タカ。
彼女もまた、スカッピーに己の全てを捧げた少女であった。