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残念ながら手遅れです、覚悟はいいですか

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 えっと、それから稽古中はもうめっちゃくちゃに強くてすごくて、毎日尊敬が深まるんですけど、休憩中にお話しさせてもらってるときとか、すっごく子供ぽい顔で笑うんですよ。あんなに格好いいのに、ちょこんって感じに座ってるのとか、もうどうしたらいいのかわかんないぐらいにかわいくって! おやつを差し上げることもあるんですが、義勇さんって食べ方が子供みたいなんですよ。知ってました? 最近、不死川さんにあげるためにおはぎを二人で作ることが多いんですけど、味見を兼ねて食べてるといつの間にかほっぺにお弁当つけちゃってて……。

「あぁ、見苦しい食べ方をするなってことですね?」
「見苦しい、ですか? 義勇さんって近寄りがたいぐらいきれいな人だから、ちょっと隙があるほうがかわいくて好きだなぁって思うので、べつに気にならないです!」

 なるほど。恋においても長男力を発揮しているのだろう。子供のように下手くそな食べ方は、かえって保護欲を掻き立てられるらしい。目をキラキラとさせて言う炭治郎には、恋は盲目、痘痕(あばた)も靨(えくぼ)、そんな言葉のほうがふさわしいと思うけれども。

「……でも、冨岡さんって嫉妬深くありませんか?」

 受身でいるからいけないのだ。こちらから探りを入れなければ身がもたない。
 遅ればせながらそれに気づいたしのぶが水を向けると、炭治郎が悩ましげに「そうなんですよね……」と呟いた。

 我が意を得たり! やっとまともな問診に入れます!

 内心快哉を上げたしのぶだったけれども、あにはからんや。炭治郎がほぅっと幸せそうにため息をつきつつ言ったのは。

「義勇さんって本当にかわいい人だなぁって、嫉妬されるたび思います」

 はい?

 思わず顔を引きつらせてしまったのはしかたがないと思う。
 なぜ! どうしてそうなるんですか! と、炭治郎の胸倉を掴んで揺さぶらなかったのを褒めてほしい。あまりにも明後日過ぎる方向に進みだした話に眩暈がしそうだ。
 遠い目をするしのぶに気づかないまま、炭治郎はどこかうっとりとはにかんでいる。

 義勇さんってば、俺が善逸や伊之助と一緒に出かけるだけで、そわそわしちゃうんですよ。顔には出さないし、言葉では楽しんでこいって言ってくれますけど、匂いでわかるんです。行かないでほしいって思ってるのが。しゅんとしちゃってるのがホントかわいくって。それに、俺が義勇さんを置いて出かけた日は、帰るとずっと抱き締めてくれて……寂しかったって匂いと傍にいろって怒ってる匂いが交ざり合って、でも怒りたくないって思ってるのか、いつでも楽しかったかって聞いてくれるんです。その声もやさしいんですけどちょっと拗ねてて、なんてかわいい人なんだろうって、こう、胸がキュウゥゥってなるんですよねぇ。

「だとしても! 冨岡さんは結構むっつり助平だったりしませんか? 閨で無体なことを言われたりもするでしょう!?」

 できれば聞きたくはなかったけれど、さすがにこれなら核心を突いただろうと思ったのに。

「や、あの、そんなことは……。義勇さん、いつもやさしくしてくれるし……たまに意地悪なのも、すごく気持ちいい、です……」

 義勇さんに触られるだけで、うれしくって幸せで……やさしいのも、意地悪なのも、全部気持ちいいから……。
 そう消え入りそうな声で言う炭治郎は、なんだかとても愛らしくて。義勇でなくてもかわいがりたくなるのかもしれないけれど。
 少しうつむいてもじもじと、あらわになった項(うなじ)まで淡い朱に染めて。なにかを耐えるように胸元で手を握り締め、幸せそうに唇に笑みを刻む。実り育む恋心の初々しさに加え、ほのかに滲むのは咲き初(そ)めの花の色香。
 そんな炭治郎の告白を聞いているのが義勇ならば、かわいいのはおまえのほうだと身悶えるのかもしれないけれども!

「炭治郎くん……それならなにを悩んでいるんですか? 冨岡さんがかわいくてなんの支障が?」

 疲れた……。もはやしのぶの脳裏に浮かぶのはその一言だ。こんなどうしようもない疲労感と頭痛は三度目。もう嫌だ、この兄弟弟子。
 あれですか? 水の呼吸の鱗滝一門は、みんな冨岡さんや炭治郎くんのように天然で、突拍子もない悩みしかないんですか? 剣術だけでなく常識も教えておいて欲しかった!
 逢ったことのない兄弟弟子の育手に、嫌味の一つも言いたくなる。

 なのに、そんなしのぶのぐったりとした声音に気づかぬ炭治郎は、きょとんと目をしばたかせるばかりで、口にしたのはとどめの言葉。

「え? ですから、義勇さんがかわいすぎるってことを誰にも話せなくって……。前に善逸に言ったら、悲鳴を上げて逃げられちゃったんです。義勇さんはこんっっなにかわいいんだぞ! って、自慢したいのに誰も聞いてくれなくて悩んでるんですって義勇さんに相談したら、しのぶさんが悩み相談してることを教えてくれました!」

 やっぱり義勇さんはすごいです。義勇さんのかわいさを誰かに話したくて話したくて、俺、とっても悩んでたんですけど、ちゃんと解決してくれたんですから! しのぶさんにも感謝してます! 問診ってすごいですね、スッキリしました!

 キラキラと大きな目をきらめかせて、ほんのり頬を赤く染めて。快活に笑う炭治郎に、悪意はきっと欠片もない。純粋な感謝を伝えているだけでしかない。
 真正直で裏表のない少年だ。初心(うぶ)で世慣れぬ素直な子供である。だからきっと、炭治郎が悪いわけじゃない。愚かではあるけれど。恋をすると人はこんなにも馬鹿になるのかという、見本のような状態ではあるけれども。
 だから悪いのは、愚か者の片割れのほう。

「…………そうですか。お役に立ててなによりです……」
 お館様、姉さん……しのぶは未熟者です。まだまだ鍛錬が足りません。覚悟も足りていなかったようです。
 でも、これはしかたないと思いませんか? これぐらいは許されますよね!?

「炭治郎くん、冨岡さんに伝えていただけますか?」

 問診は今後一切不要です、惚れた腫れたや愚か者につける薬はありません、って。