罪と罰
小さな声が耳に届いて、静雄ははっと気付いた。頭の片隅が、きしむように痛んだ。殴られたのかもしれない。
かぼそい、おそらく女と思われる声は、どこか幼さも感じられたのだけれど、確かめようにも、何も見えなかった。暗闇の中、ではない。目を開けようとしても無駄だった。糸で縫い付けられたかのように、瞼が重い。指先が震えるように動いたが、それだけだった。
「ごめんなさい。そんなことばでゆるしてもらえるなんて、思ってませんけど、でもほかに言いようがないんです」
少女は、どこか感情の乏しい空虚さを感じさせる声で、謝罪のことばをくりかえした。
どうしてこうなった? 身体の自由がきかない。瞼すら開けられない。身体の上に、声の主と思われる少女がのりかかっている。
「臨也の差し金か?」
「違います。わたしも、折原臨也さんのことはすきではありませんけれど、でも違うんです。これは折原さんじゃなくて、わたしと、わたしたちがやったことなんです。平和島静雄さん」
「じゃあ。なんなんだ。なんで、こうなってんだ?」
静雄の問いに、少女はほおっと溜息を吐く。
「――罪歌、って言ったらわかってもらえますか」
「前に俺につっかかってきた奴らか?」
「そうです。みんな、わたしのこどもたち、です」
少女の言うことが、静雄には理解できない。ただ、あの赤い目の奴らがこどもだというのなら、この少女も、おそらく、化け物だ。俺と、同じ。人間であって、
「貴方の事、きらいじゃない。むしろすき、です。だから、あの子たちに愛させたりしたくないんです。でも、あの子たちは、愛したいって言ってるんです。あきらめきれないって――」
じぶんの腹の上で、やわらかい身体がもぞもぞと動いて、布と布とがこすれあって、がさがさと音を発てる。押しつけられているのは、やわらかい女のからだだった。反射的に静雄は逃げようとしたが、やはり動けず、頭の片隅がずきずきと痛んだ。
「わたしはちゃんとひとを愛することなんてできない、出来損ないなんです。でも知識として、方法だけは知ってるから。この子たち、それをしたら、諦めてくれるって言ってるんです」
少女は、淡々と語り続ける。その度に、小さくからだが動き、体温が押しつけられた。
「貴方には、ほんとうにごめんなさい。謝ったってゆるしてもらえるとは思ってません。貴方にとって、きっとわたしたちなんて、愛せないと思うけれど、でも、刺したり、傷付けたり、殺したりはしたくないんです。今からわたしがすることも、暴力には違いないと思います。わかってもらえないって、わかってます。でも」
冷たい手が、肌に直接ふれて、ぞぞっと背中が粟立った。静雄は、手の行き着く先を察して、もがいても、とらえどころのない何かに押さえつけられて動けない。
「やめ、」
「ごめんなさい、ごめんなさいごめんなさい」
謝罪のことばに、重なって、囁くような呪いの声が聞こえはじめる。(あいしてるあいしてるあいしてる)
静雄は、耳を塞ぎたかったがそれすらもできず、ただ降り注ぐ異形の愛のことばを聞きつづけるしかなかった。