迎え火
じわじわと夏の日差しが強く照りつける煉獄家の庭先で、細い煙が立ち上っていた。
日影になる縁側に腰掛け、その一筋の迎え火の煙を見上げる煉獄杏寿郎の横顔を、宇髄はそっと盗み見る。
煉獄は、普段から感情を表に出さない男だ。
常に口元には笑みを称え、何事にも動じない懐の深さを感じさせる振る舞いをする。
今もそう。微笑を浮かべて、強い視線を空に向けていた。
「……」
声をかけることも憚れるような空白が横たわる。
空を見上げ、煉獄と同じ景色を視界におさめると、横から落ち着いた声がかかった。
「…つまらないことに付き合わせてしまったな、宇髄」
「いんや、大事なことだろ。」
立派な家柄であればあるほど、盆の風習はきちんとするものだろう。
「寧ろここにいるのが俺でいいのか?」
視線を交わすことなく訊ねると、煉獄は首肯する。
「送り盆まで家族の時間は十分ある。君とはなかなか都合がつかないからな」
「……そっか。ま、お前の母親とは面識ねえけど、お前の根っこを育てた人の墓参りができてよかったよ」
迎え火の火は、墓参りの際に分けてもらうのが通常だ。
千寿郎と三人で墓石を綺麗に掃除して花を上げ、迎え火をもらって今に至る。
先代炎柱であるあの煉獄慎寿郎を父に持ちながら、こうも真っ直ぐな性格でいられたのは一重に母親の影響が大きいのだろう。
「きっと、強い人だったんだろうな」
「ああ。役割を重んじる方だった。」
そう言って、煉獄はもしかしたら、と続ける。
「柱であり、家長であり、元忍の側面を持つ君とは馬が合ったやもしれん」
「本当かよ」
二人で顔を見合わせ、笑い合う。
くゆって昇る煙に、顔も知らない故人を偲び、宇髄は胸中で語りかけた。
ーー煉獄杏寿郎は、皆に愛されています。
貴女からは心の強さを、慎寿郎殿からは柱としての強さを。
しっかり受け継いで、立派にやっています。
そしてこいつが疲れたときには、俺が支えてやります。
だから、安心して見守ってやってください。
そっと隣に手を伸ばして、煉獄の顎を上向かせると唇を掠めとるように重ねた。
「な、なんだいきなり…!」
「んー…誓いの接吻?」
赤面する相手に、悪びれなく笑いかける。
煉獄は怒る勢いで何度か口をぱくつかせてから、意味を察したのか一度ぐっと言葉を詰めた。
「っ…そういうときの誓いは、ひとりで立てるな。共に分け合おう。君と同じだけの想いを背負いたい」
「お、おう…」
至近距離で意志の強い瞳に見つめられ、不覚にもこちらの顔が熱を持ってしまう。
この漢気…女なら卒倒しかねない。というか俺が卒倒する。今、倒れてもいいか?
落ち着かせるようにゆっくり深呼吸し、居住まいを正して彼の亡き母に向き直った。
ーー今日も息子さんは、身も心もイケメンです。
優しく風が吹き、楽しそうに煙が踊った。
fin.