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やきもちとヒーローがいっぱい

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 ……俺は、義勇があの犬を逃がそうとしていたなんて、気づかなかった。

「わかったっていうか……義勇さん、あの犬が心配だから動けないんだなって思って。あの犬を逃がしてあげられたら、きっと義勇さんがあいつらをなんとかしてくれるって思いました!」

 そんなこと、俺はまったく気づけなかった。

 錆兎は呆然と、木に繋がれたままの犬を見つめた。怯えていた犬は、今ここにいるのは恩人たちだと理解しているんだろう。禰豆子になでられ、うれしそうに尻尾を振っている。
 たしかに炭治郎が言うとおりだ。義勇のことだから、自分が動いたらあいつらが犬にひどいことするかもしれないのを警戒してたんだ。

 錆兎は視線を落とし、自分の手をじっと見つめた。
 まだ小さい手。体も心もまだまだ自分は幼い。どんなに義勇の兄弟子だ、俺が兄ちゃんだと言い張っても、やっぱり自分は義勇よりずっと子供なのだと、改めて思う。
 義勇を悪く言われて、怒りで理性をなくした。状況を見定める目を曇らせた。

 なんて、未熟……っ!

 グッと拳を握りしめたとき、突然大きな手にぐしゃぐしゃと頭をなでられた。パッと手の主を仰ぎ見れば、銀髪の優男がどこか人の悪い笑みを浮かべて見下ろしている。
「なぁに地味に落ち込んでやがんだよ、チビ」
「チビじゃない」
 ふふんと鼻で笑う男をにらみあげ、その手を払いのける。チビ呼ばわりは心外だ。不満に顔をしかめたが、それでも錆兎は、すぐにふっと息を吐くと神妙に頭を下げた。
「助太刀、感謝する。おかげで助かった。俺は錆兎。義勇の……」
 一瞬の逡巡。けれど。

「義勇の、兄弟子だ」

 今はまだ幼くて、まだまだ未熟者で。義勇のことならなんだってわかるなんて、思い上がりだと思い知ったばかりだけれども。

 それでもやっぱり、俺は義勇の兄弟子で、義勇が大事で大切だから。

 その自負をなくしたら、そんなの俺じゃない。足りないのならば努力すればいい。男なら自分の境遇は自分の力で乗り越える。それでなければ、義勇と肩を並べる男になどなれるものか!

 いつか義勇の心のなかの一等席は、炭治郎のものになるのかもしれない。
 だけどいつまでだって、自分が義勇の兄弟子であることは変わらない。
 今は駄目でも、必ず義勇と背を合わせ戦える男になってみせるから。

 だから錆兎は堂々と胸を張る。
 それに今はまだ、義勇に任せたと言われるのは炭治郎じゃなく俺だしな。思いながら、錆兎は不敵に笑った。
 傍らでハチが、同意するようにオン! と鳴いた。