歪んだ愛の物語
シズちゃん、シズちゃん。
シズちゃんは、俺の事が嫌いでしょう?
そりゃああんだけ俺に向かって物ぶん投げたり、標識振り回したりしてるそばから、実は好きでしたなんて言うはずもないよね。
君が心底俺を嫌ってることも、毎回本気で殺しにかかってきてることもわかってるんだ。
わかってるんだよ、わかってるんだけどさ。
それでもどうしたって、俺はシズちゃんが好きなんだよ。
バカみたいだよねぇ、叶うはずもないのにさ。
俺も自分がこんなに非生産的な恋をするなんて思ってもみなかったよ。
だってシズちゃんだよ?俺の事を世界で一番嫌ってるシズちゃんだよ?
俺がシズちゃんをどれだけ好きになろうが愛そうが、きっと君はいつまでたっても俺をノミ蟲だとか言い放つんだろうね。
だってねぇ、君はいつだって俺の予想外の事をしてくれる。来神の時からそうだ。
全く虫唾が走る。この俺に思い通りに行かない存在があるなんて。
いつだって俺の事が大嫌いで、会ったらバカみたいに毎度毎度俺のことを本気で殺しにかかってくる。
毎回そんなことをしてるもんだから、俺らと関わりを持とうとする奇特なやつなんて新羅くらいで、だから俺らの周りにはいつだってまず人はいなかった。
だから、きっとこの先もずっとお互い人と関わりを持ちながら生きることなんてないんだろうと思ってた。
それなのに、シズちゃんの周りにはいつのまにか人が集まっていた。
喧嘩人形なんて呼ばれていながら、それでもシズちゃんとの上手い関わり方を見つけて、仕事の上司やら運び屋やら、一緒にいてくれる人たちが出来た。
・・・またそうやって、君は俺の想像の上を行くんだよ。
シズちゃんが一人じゃなくなっても、俺は相変わらずずっと一人だ。
誰かを利用しては捨てて、また次の種を探して街を引っ掻きまわす。
そうやって人を食ったような生き方をしている俺の一番そばにいてくれたのは、他でもないあのシズちゃんだった。
俺が池袋に行けばいつでも必ず見つけ出して、名前を呼んで、追いかけまわしてくれる。
これが池袋のどこにいようが必ず見つかるもんだから、もう一種の才能なんじゃないかとも思う。
そう、名前を呼ぶんだ。
他の誰も俺のことを畏れて、忌み嫌って、不気味に思って、正面から向き合ってくるやつなんていないのに、シズちゃんだけは、いつだって本気で、名前叫んで、死ねって叫んで、正面切って殺しに来る。
結局、俺のそばに誰よりもいてくれたのは、俺を殺すために駆けつけてくる人だった。
それでも、嬉しかった。
嬉しかったんだよ。
俺のためだけに来てくれる人がいることが。
ずっと一人で平気だったのに、そのことに気付いた時から、シズちゃんがまた俺のところに来てくれるのをひそかに楽しみに待っていた。
俺を本気で殺そうとして俺に会いに来てくれるのが嬉しくて嬉しくて、池袋に何度だって足を運んだ。
そのたびにシズちゃんはちゃんと俺のところに来て、いつも通り全力で俺を殺しにかかってきてくれた。
あぁ、なんて幸せ。
誰かが俺のために、本気で何かをしてくれるだなんて。
わかってるよ、歪んでることくらい。
でもそんなのどうだっていいんだよ。
だってシズちゃんの本気の殺意はいつだって俺のために向けられて、名前を呼んでくれて、俺はそれを心地よく思ってる。
それ以上の事は望んでないんだから。
たったこれくらいの幸せ、俺だって感じたっていいでしょう?