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【FGO】ただひとつ

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「山南さん! ホラ! 食え食え」
 斎藤一が鍋の野菜やら肉やらを取り皿にぽいぽいと入れてくる。
「なんですか、山南さんを餌付けしてるんです?」
 別の隊士と喋っていた沖田総司が、横合いから山南の手元を覗き込んだ。
「あんれ、沖田ちゃん。アンタはもっと食え」
 酒と七輪の火、そして鍋の湯気で顔を真っ赤にした斎藤が、取り箸で摘まんだ野菜と鴨肉をぐい、と差し出した。
「うわ、酔っぱらいだ」
 沖田はうげ、と嫌そうな顔をしたものの、ちゃっかりと取り皿を差し出す。ほあっ、ほあっ、と湯気が上がった。その向こうに、他の隊士たちもいる。ここは……。馴染みの料理茶屋のどれだったか。行灯に、明るさを足すための蝋燭。七輪で赤々と燃える炭。猪口で揺れる酒に照り返る灯り。
「山南さんも食べないと。斎藤さんの給仕なんて滅多にありませんよ」
 咀嚼しながら沖田が山南を促す。
「あ……、ああ。そうだね。頂こう」
 一瞬呆けていた山南も箸を取って、熱々の野菜と鴨肉を食べ始める。熱を持った食材が体に入り、落ちた胃の腑でかあっと燃え上がったかのように、体が温まってくる。
「食え、食え。どんどん食え」
 大分聞し召して、とうとう茶碗から酒を呑みながら、斎藤はひたすら鍋の具を山南と沖田の器に盛り続ける。
 ――ああ、冷えていたのか。
 山南がそれを認識した途端、いきなり全てが暗転した。
「ああ……。ああ、そうだった」
 いつの間にか、過去にあった記憶を反芻していたのだ。懐かしい、あの頃の……。
 だが、それは壊れた。いや、それは道理であったのだ。始まったすべての物は、終わりへと向かう。自分の終わりは、それでも納得した末だ。
 恨みなどない。
 とは言え、ずっと、いつまでも続けばよかったのにと言う望みはあった。夢が、理想が、そして理念が行き違いさえしなければ、と言う悲しみもあった。
 だが、永劫続くものではなかった、と言うのも、今となっては判っている。
 それが歴史の流れなのだと。

 ただ――。己の、そして彼らの想いが利用されるのは我慢ならない。
 彼らの来し方を、そして最後を踏みにじられるのは我慢ならない。
 ならば。
 己のするべきことは決まっている。
 彼らは怒るだろうか。呆れるかもしれない。
 それでも、これだけは違えられないのだ。

「……私の経歴は承知の上のはずでしょう?」
 薄暗い座敷で、山南はそう言った。
 私のやるべきことは、ただ一つ。

 -- end
作品名:【FGO】ただひとつ 作家名:せんり