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ワクワクドキドキときどきプンプン 2日目

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 炭治郎の声に意識を引き戻され視線を移すと、髪を乾かす手を止めぬまま炭治郎は、心配そうに義勇を覗き込んでいた。
 いつものように大丈夫だと伝えるために炭治郎の目を見た義勇は、思い直し口を開いた。
「……なんでもない」
「でも……なんか悲しい匂いがします」
 自分のほうこそしょんぼりと悲しげなのに、炭治郎はそんなことを言う。
 ああ、そうか。思いついて、義勇は少し笑ってみせた。
「本当に……大丈夫だ」
 途端に炭治郎の顔に笑みが戻った。ほわりと笑う炭治郎はお日様のようだ。その笑顔が好きだと義勇は思う。笑ってくれるとホッとする。

 ──義勇さんが笑ってるのが一番うれしいですよ!──

 ──悲しいですか? 大丈夫ですよ、俺、ずっと一緒にいます! 義勇さんがどこに行っても、絶対に俺が迎えに行ってあげますから!──

 初めて逢った日の、炭治郎の言葉が頭をよぎる。
 義勇が笑えば、炭治郎も笑ってくれる。炭治郎が笑うと義勇も楽しいと思えた。義勇が悲しめば、炭治郎も悲しいと顔を曇らせてしまう。今、炭治郎が悲しげにしているだけで、義勇の胸が痛んだのと同じく。
 かわいいと素直に思う。この子が笑ってくれるなら頑張ろうと、愚直なまでにすんなりと決意が湧く。
 弟がいたならこんな感じなのだろうか。姉も……もしかしたら義兄も、自分のことをこんなふうにかわいいと思ってくれていたのだろうか。思えばどうにも面映ゆく。同時にどうしようもなく切ない。
 後悔は尽きないし、罪悪感は今も胸を焼いて、心から悲しみが消え去ることはない。それでも、この子が……炭治郎が望んでくれるのなら、ヒーローにだって兄にだって、なってやりたいと思うのだ。
 錆兎や真菰のことも大切で大事だし、禰豆子のことだってかわいいと思うけれど、炭治郎にはなぜだか不思議に執着心や独占欲が湧く。これは一体なんなのだろう。
 恩人だからだろうか。いろいろと考えることが増えたのも、炭治郎が心に光を灯してくれたからだ。恩義を感じているのは確かだけれど、それだけじゃないような気がして、義勇はじっと炭治郎を見つめた。
 炭治郎は義勇の髪を乾かすのに集中している。髪を洗ってくれていたときと同じように、炭治郎は真剣な顔をしてドライヤーを動かしていた。

 こんなふうに互いに髪を乾かしあう日々を、炭治郎と送れたら。炭治郎の髪に触れ、炭治郎に髪に触れられるのは、きっと毎日だって飽きやしない。そのたび炭治郎は笑ってくれるだろう。そうしたら、自分も笑ってやって……。

 ふと浮かんだそんな想像に、義勇は思わずきょとんとまばたきした。
 今、自分はなにを考えたんだろう。それではまるで一緒に暮らしたいと言っているようなものじゃないか。
 もっと一緒に過ごす時間があればいいのにと、思ったことはある。炭治郎が弟弟子になれば叶うとうれしくもなった。けれど、家族でもないのに一緒に暮らすのはどうなんだろう。
 錆兎や真菰だって戸籍上では家族ではないけれど、二人や鱗滝は、もう義勇にとっては家族以外のなにものでもない。だが炭治郎にはちゃんと禰豆子たち家族がいる。義勇と家族になることなんてありはしないのに。

 ……やっぱり、俺は炭治郎のことを本当の弟のように思っているんだ。だからこんなにもかわいくてしかたないんだろう。

 家族にはなれなくても兄弟子にはなってやれるし、ヒーローでいてやることだってできるはずだ。自己完結した義勇は炭治郎への自分の想いについて考えることをやめた。精一杯頑張って、炭治郎のヒーローでいること。そのために自分ができること。それを考えるほうが、今の義勇にとっては大事なことだった。
 そこまで思って義勇は、ふと、そう言えば今日はあまりぼんやりせずにいるなと、また目をしばたかせた。
 あんまりいろいろと目まぐるしかったからか、常にあった心がどこかへ行く感覚さえ、ここに来てから忘れていたような気がする。
 元はと言えば宇髄と煉獄のせいではあるけれど、湯あたりしてからずっと、思考が働き続けているような。いや、もっと言えば宇髄や煉獄と公園で出くわして以来、考えることが以前よりずっと増えた。
 炭治郎と出逢ってから、自分で考えることはたしかに増えていたけれど、それでもぼんやりしてしまうのは止められない。自分の意思ではどうにもできないのだと、少し焦りつつも諦めていた。
 それなのに、どうして自分はこんなにもいろいろと、考えを巡らせるようになったのか。答えが見つからず想いに沈み込みかけた義勇の耳に、炭治郎と禰豆子の明るい声が聞こえてきた。
「ぎゆさん、終わったよ!」
「これでもう風邪ひかないですよね!」
 いつもの位置で髪を結び終えて笑う二人にうなずき、二人の頭を撫でてやる。答えを考えるのは後でもいい。今、一番大事なのは。

「ありがとう……」

 ほんの少し笑ってみせたら、炭治郎ははにかむように笑った。
<章=12:炭治郎>

 迎えに来る前に鱗滝が敷いておいてくれた布団に、それぞれ横になる。並び順は昨夜と同じだ。
 今日も一緒に眠ってもいいかな。思いながらも言い出せずに、自分の布団に入る義勇を炭治郎がチラチラと見ていると、義勇が炭治郎を見返しポンポンと布団を叩いた。
 来ないのか? と言うように首をかしげるから、炭治郎は枕を抱え、飛び跳ねるようにして義勇の布団へと近づいた。
 なんだか照れくさくて、えへへと笑ったら、義勇の唇にも少しだけ笑みが浮かぶ。炭治郎はますますうれしくなって、ぴょこんと義勇の枕元に腰を下ろした。
「今日も一緒に寝てもいいですか?」
 うなずいてくれた義勇の隣にいそいそと体を滑りこませれば、すぐに布団をかけてくれる。温かさと義勇から香るやさしい匂いに甘え、炭治郎はそっと義勇に問いかけた。
「あの……少しお話してもいいですか?」
「……車で寝たから、眠れないのか?」
 小さな声でお願いすると、義勇が囁き声で返してくれた。うなずく炭治郎に少しだけ考えるように視線を逸らせた義勇は、もぞりと動いて体ごと炭治郎に向き直ると、頭まで布団を引き上げた。
「義勇さん?」
 暑くないのかなと首をかしげつつ声をかけたら、義勇は少し笑ったようだった。暗くて顔は見えないけれど、匂いがとてもやさしい。
「邪魔になるかもしれないから」
「あ、そうですね。話し声でみんな眠れないかもしれないか。えっと……義勇さんは? 眠くないですか? お話してても大丈夫ですか?」
 ちょっとだけ声に不安が滲んでしまったんだろう。義勇は炭治郎の体に腕を回し、ポンポンと背中を軽く叩いてくれた。大丈夫、気にしないでいいと、やさしい手が伝えてくれる。
 頭まで被った布団は、まるで義勇と二人きりでいるような気にさせる。うれしくて、照れくさくて、今自分は義勇を独り占めしているのだと胸がドキドキする。
「今日、すごく楽しかったです。義勇さんと一緒にお風呂に入れてうれしかった」

 義勇さんに髪を洗ってもらうの、とっても気持ちよかった。義勇さんはどうでしたか? 俺、ちゃんと義勇さんの髪洗えましたか? 壺湯にみんなで入ったの楽しかったですね。狭かったけど、ぎゅうぎゅうくっついてお風呂に入るの面白かった。