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根岸 郁男
根岸 郁男
novelistID. 64631
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オレ、オレ タカシ

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【 オレ、オレ、タカシ 】

《登場人物》

笠置 千恵子(88歳) 主人公
笠置 タカシ(26歳) 千恵子の孫
偽のタカシ 特殊詐欺 かけ子
警官  巡回中の警官
 TVニュースキャスター


〇 千恵子の家 居間(お昼頃)
   四畳半程の木造の居間、、電気こたつの上には食事が済み、食べ終えた茶碗が重なってある。
   千恵子、急須から湯飲み茶碗にお茶を注ぎ、お茶を飲む。
   千恵子、TVのリモコンのスイッチを入れる。
   TVにお笑い番組が掛かっている。
千恵子「わたしゃ、ニュースが見たいんじゃ。最近のお笑い番組は何が面白いのかさっぱりわからん」
   千恵子、座布団の傍らに置いてある新聞を取り寄せる。
   千恵子、新聞紙を広げ、TVの番組票のページをめくる。
   千恵子、目を顰め、新聞紙から顔を放す。
千恵子「さっぱり見えんわ、毎日毎日少しずつ見えんようになってきたわ」
   千恵子腰をあげ
千恵子「めがね、めがね」と言いながら、あたりを探して見回す。
   TVの隣には仏壇、低めの茶箪笥。茶箪笥の上にはナンバーディスプレー対応の固定電話が置いてある。その隣には洋服箪笥が並んでいる。
千恵子「さて、どこぞに置いたか忘れてしもうた。足でも生えてどこかへ散歩でもいきよったかいな」
   千恵子、ブツブツ言いながら電気こたつの前に腰を下ろす。
   千恵子、リモコンを手にして、チャンネルを変える。
   TV画面が、ニュース番組に変わる。
TVニュースキャスター「昨夜、正午過ぎ、一人で留守番中の老人宅に数人の強盗が入り
 老人を脅して現金一万円を奪っていきました。幸い老人にはケガがなかった模様です。
 犯人たちは、警邏中の警官にたまたま、玄関先で遭遇し、敢え無く逮捕されました」
千恵子「ばかな犯人達だね…一万円のために一生を棒に振っちまった」
   茶箪笥の上に設置してある固定電話が鳴る。
   千恵子、電話の方をみる。
千恵子「さっき、そっちに行ったときに鳴ってくれりゃいいのに。年寄をなんだと思ってんだよ」
   千恵子、再び腰を上げる。
   千恵子、目を細める。
   固定電話のナンバーディスプレーに電話番号が表示されているが、ぼやけて見えない。
千恵子「はい、もしもし笠置です」
電話の声「もしもし婆ちゃん、オレだよオレ」
   眉を顰め怪訝な表情の千恵子。
知恵子「俺って誰だい、ひよっとして、孫のカズシゲかい?」
電話の声「知恵婆ちゃん、オレだよ、孫のタカシだよ。誰だいカズシゲって」
千恵子「ははは、カズシゲって言うと思った。今はオレオレ詐欺が流行って高齢者を騙し来る電話が多いからのう」
電話の声「オレオレ詐欺だったら知恵婆ちゃんっって言わないだろ。名前知らんから。もっとも、なんて名前か調べてから電話する詐欺も多いから気をつけんと」
千恵子「ところでなんだい、タカシ、お小遣いの催促かい。婆ちゃんは国民年金しかもらってないからお金はないよ」
タカシ「多少の小遣いだったら婆ちゃんところに電話しないよ。オレ、やばいことしてしまったんだよ。父さんや母さんには知られたくないんだ。必ず必ず返すから頼むよ知恵婆ちゃん」
千恵子「何があったか知らんけど金が必要っだってことやろ。いくら?」
タカシ「二百万でいいから、頼むよ知恵婆ちゃん」
千恵子「タカシ、声が変じゃないか。やっぱりオレオレ詐欺じゃないのかい?」
タカシ「二三日前から風邪ひいていつもの声じゃなくごめんな」
千恵子「何があったか知らんけど、二百万って金、婆ちゃんにはないよ、いくらかわいい孫だからって言って、ないのもは仕方がないんだ」
タカシ「お金の隠し場所しってるよ。知恵婆ちゃの洋服箪笥になかにしまってあるよ」
千恵子「あら、そうかい!忘れてわ。確かに箪笥にタンス預金してたわ、さすが、孫のタカシだね、隅におけんな。じゃ探しとくわ」
タカシ「オレ、金をとりに行きたいけど、相手の取引先に謝りに行かなきゃなんらんから
 会社の上司に頼んでおくからその方に渡してね。頼むね知恵婆ちゃん」
千恵子「あいよ、分かった分かった、会社のひとが取りにくるから渡せばいいのね」
タカシ「頼むね知恵婆ちゃん」
   千恵子、受話器を置く。
千恵子「(つぶやく)なんか調子いいね、金のいるときだけ知恵婆ちゃん知恵婆ちゃんって」
   千恵子、腰を上げ洋服箪笥に近づく。
   千恵子、洋服箪笥の前に佇み前を見る。七段重ねのタンス。
千恵子「さてと、何番目にしまってあったっけ。しかし、お金の隠し場所まで知っていると隅に置けない孫だね」
   千恵子、とりあえず座り込み下段の引き出しを開け、洋服をかき分け探す・
   千恵子、下段にはなくそのうえ、その上と開けては閉めていく。
   千恵子、中段までくると手が届かないので椅子を持ってくる。椅子の上に上がり上段の引き出しに手をかけるが重くて引き出せない。
千恵子「私にゃ無理だわ。そうだ取りにくる会社の人に探してもらうか、その方がええ」
千恵子「そうそう、お茶の用意をしとこ」 
   千恵子、茶箪笥の引き出しをあけて湯飲み茶わんの用意をする。
   玄関の方から、ピンポンと玄関のチャイムが鳴る。
千恵子「早いね、もう来たのかね。」
   千恵子玄関に向かう。
   千恵子、ドアスコープから除く。
   警察官の格好をした男性が立っている。
   千恵子、ドアを開ける。
千恵子「早かったですね。待ってたんですよ。それにしてなんの格好をしているんですか、タカシの会社の人でしょ。あっはは」
警察官「会社の人?。最近高齢者を狙った詐欺や強盗が多くなってきたのでご近所の防犯を兼ねて見回り巡回をしているんです。最近変わったことは」
千恵子「なに言っているんですか。タカシの会社の人でしょ、お金を取りに来るって。まぁ入って入ってください。わたしゃ、背が低いんでとどかないんですよ。一緒に探してもらえませんか」
   千恵子、警察官を部屋の中にいれる、
   千千恵子、洋服箪笥の前に立ち、
千恵子「多分、一番上かどこかにあるはずなんですが」
   警察官、千恵子の顔をじっと見つめる。
千恵子「あらいやだ、恥ずかしい。何十年ぶりかしら」
警察官「お婆さん、その電話、本当にお孫さんからですか。確認しましたか」
千恵子「私の名前を言ってくれるしタンス預金の隠し場所も知っているから本当だと思いますが」
   千恵子、警察官の顔を覗き込む。
警察官「最近の特殊詐欺は賢くてちゃんと下調べをしてから電話してくるんですよ。本当にお孫さんからの電話でしたか」
千恵子「最近目がよく見えんから確認しないで電話を取ったんですか」
警察官「今すぐ確認してください」
   千恵子、ダイヤルで孫のタカシの電話番号を出す。
   千恵子、外線ボタンを押す。呼び出し音が鳴る。
タカシの声「もしもし、タカシ。なに婆ちゃん」
千恵子「さっきの声と少し違うね。タカシ、あんたさっき電話したやろ」
タカシの声「してないよ、何故」
千恵子「(受話器を塞いで、警察官に)してないって」
千恵子「あんたわたしのタンス預金どこにしまったか、しっとるかい」
作品名:オレ、オレ タカシ 作家名:根岸 郁男