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いきなりアルパカ

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日曜日の昼下がり。
 ピカピカの新居で、ホヤホヤの新婚夫婦が二人きりでくつろいでいた時だった。
 ピン、ポーン。
 新妻が立ち上がってドアホンを確かめに行くと、そこには一頭の人外が映っていた。
「こんにちは、アルパカです」
 人外はそう自己紹介した。
 新妻はいぶかしがりながら、一応、淡々と尋ねた。
「どういったご用件でしょうか?」
「ボクを飼って下さい」
(せっかく次男坊と結婚して、夫婦水入らずなのに……)
と思いながら、新妻は面倒くさそうに答えた。
「……申し訳無いですが、間に合ってますので」
「誤解しないで下さい。『買って下さい』じゃないから、お金は要りません」
「エサ代はずっと要るんですよね。帰って下さい」
「とってもカワイイですよ。六食昼寝付きにしてもお釣りが来ますよ」
(新妻の私でも兼業主婦なのに、ローンありありの新居でどんだけラクする気なんだよ)
と心の中でツッコミながら、新妻は突き放した。
「帰って下さい」
「今日から飼育して下さいよ……調教して下さいよ」
「何か気持ち悪いからいいです」
「やましいことが無ければ、ボクを世話すべきです」
「帰って下さい!」
 と、そこに新夫(にいおっと)がやってきて、控えめな声で尋ねた。
「Tちゃん、どうしたの?」
 新妻は、同じく控えめな声で答えた。
「見て? 何かヘンなのが来てるの」
「……アルパカ?」
「すごく飼ってくれ飼ってくれ言ってくるのよ」
「さっさと切っちゃいなよ」
 すると、アルパカが大きな声で割り込んできた。
「お宅やましいことがあるんですよね! ボク知ってますよ!」
 新夫は保留を押した。
 新婚夫婦は顔を見合わせた。
「何なのこのアルパカ? 俺たち脅迫されてるの?」
「警察呼ぼっか?」
「うちにやましいことがある、それをこのアルパカが知ってる、って何? Tちゃんここまで何話したの?」
「本当に、飼ってくれ飼ってくれ言われて断り続けただけだよ」
「このアルパカ、やけに自信ありげに脅迫してきてるよね。Tちゃん何か知らないの?」
「初めて見たし、知らない」
「ホントに?」
「知らないって! Oくんこそ何か心当たりがあるんじゃないの?」
「俺も何も無いよ! っていうか何でこんなアルパカに、俺たちの新婚生活にヒビを入れられないといけないんだよ」
「それもそうね」
 ふたりは、改めて団結した。
「ねえ、このアルパカ人権無い畜生なんだから殺(や)っちゃわない?」
 新夫は笑った。
「Tちゃん怖いよ。人間の言葉をしゃべってるのは気が引けるよ」
「今晩アルパカのステーキにするから、Oくん殺ってよ」
「とにかく、さっさと帰ってもらおう」  
 そして新夫は保留を解除して、強い口調で告げた。
「うちではアルパカは飼わないし、やましいことも全くありません。帰って下さい」
 すると、アルパカはなじるように言った。
「あなたたち『NOアルパカ』ですよね!?」
 新妻も改めて出て、言い返した。
「ハイハイ、ノーアルパカですよ! それが何か?」
「ボク知ってますよ! ……『NOアルパカ』は罪を隠す」
「……は?」
「以上です」
「それ聞き間違いだと思うよ!?」

(了)
作品名:いきなりアルパカ 作家名:Dewdrop