二次創作小説やBL小説が読める!投稿できる!二次小説投稿コミュニティ!

オリジナル小説 https://novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
二次創作小説投稿サイト「2.novelist.jp」

誰にだってあるもの

INDEX|3ページ/10ページ|

次のページ前のページ
 

「あ、これなんてどうです? 蒸気船ウィリーと愉快な仲間たち」筒井あやめは、そう言ってから飛鳥の事を見つめた。「ミッキーのデビュー作みたいです……。ディズニーの始まりみたいな希少作品。白黒映画なんですけど……、どうですか?」
 白黒映画と聞いて、飛鳥の表情は少しだけ物憂(ものう)げに綻(ほころ)んだ。
「今の時代に……、白黒観るの?」飛鳥は苦笑を浮かべる。
「ああ飛鳥さん、白黒映画バカにしちゃダメですよ、それは良さを知らないからそう感じるんです」
「知ってるんだな、これが」
「はい?」筒井あやめは耳を向けてきき返す。「なんて言いました?」
「白黒は観れない」飛鳥は美しく微笑んだ。「そう言ったの」
「そっかぁ……。じゃあ、どれにしましょっか~……」
 結局、一時間以上も、あれやこれやとタイトルと内容書きを物色しているうちに、二人は恋愛の話に意識を移行させていた。
 筒井あやめのスマートフォンからは、tiktokで流行っていそうな音楽が絶えず流れている。テレビ画面では、何かの邦画が音声を消して哀しそうな物語を展開していた。
 筒井あやめは、後ろ手をついて、脚を開き伸ばして、天井を見上げるようにふっと笑みを浮かべた。
「私は……、本当に、恋とか、まだした事なくて……。それよりも、夢が優先してたかな、ていう人生です。ん? 優先してるかな、ていう、人生の途中です。飛鳥さんは、お付き合いしてる人とか、いらっしゃらないんですか?」
「いなーい」飛鳥はあっけらかんと答えた。「なんで?」
「なんか……。なんだろ」筒井あやめは、飛鳥をまじまじと見つめる。「なんか、飛鳥さんの顔……、恋してる顔、かなと思って……」
「ふえ? わてが?」飛鳥は己を指差した。「んん別に。そんな事ないけど……」
「実は好きな人いるんじゃないんですか~?」
「はあ?」飛鳥は眉を顰める。「ルームメイトって、こういう奴ばっかか……」
「はい?」
「ううん、何でも」飛鳥は心機一転、と短い深呼吸を消化した。「あのさあ、知ってる?」
「え?」筒井あやめは、興味深そうに笑みを浮かべる。「何ですか?」
「親とか兄弟とか、ペットとかさ。まあ家族? への気持ちって一生消えないじゃん? それは、怨みでも、愛でも、感謝でも……」
「ああ……、そうですねえ」筒井あやめは深く頷いた。
「でもね、家族って……、他人同士で、作った絆なんだよ」
「他人同士……。ああ、結婚とか、してですよね?」
「だからね……」飛鳥は筒井あやめを見つめる。「家族以外にも、家族同様に、消えない思いも持てるって事よ……」
「……ん、どゆ事ですか?」
筒井あやめはあまり変化しない綺麗なその表情を険しくさせた。己のキャラメルポップコーンを掴んで、カリコリとそのままの表情で食べる。
飛鳥もキャラメルポップコーンを一粒、口の中に入れた。
「わてはなあ、たぶん一生、同じ人を好きでいるんじゃないかな……。あ私の事ね? 私の話だからね? あやめちゃんはいっぱい恋した方がいいよ、人間的な成長の為にも。何も人間に恋しなくても、音楽とか、芸事とか、それこそファッションとかに恋すればいいよ。私もそうかな……」
「人間の男の人には、もう一生、恋しないって事ですか?」
「しなぁい、ね……」
「もったいないですよ」筒井あやめは、飛鳥の女神のようなすっぴんを見つめる。「飛鳥さん……、だってこんなに小顔で、綺麗で……。見た目だってまだ十六とかに見えるのに」
「コラ!」飛鳥は驚いたように苦笑した。「何言ってんのあんた」
「フラれたんですか? その人を忘れられないんですか?」
「………」
「飛鳥さんをほっとくなんて、そんな人いるんですか? 信じらんない」筒井あやめは、あぐらにかき直して、飛鳥を見る。「飛鳥さんを悲しませる人なんて、早く忘れちゃった方がいいと思います……。そんな人、いるのか知りませんけど」
 飛鳥は、テレビ画面を静かに見つめていた。
「飛鳥さんを幸せにしてくれる人、絶対にいますよ。そんな、一生好きにならないとか、言うのやめましょう?」
「幸せって、消えないんだよ……」
「え?」
 筒井あやめは、眼を見開いて飛鳥の顔を確認する。
 飛鳥は、筒井あやめを見つめて、優しい微笑みを浮かべていた。
「もう、両手いっぱいなんだ……。思い出も、幸せも……。もう何もいらないの、後は夢を叶えるだけ……。約束を、守るだけ……」
「約束?」
 飛鳥はyogiboのクッションに、深く肘をついた。
「桜が見たいな……。マンハッタンのどっかに咲いてない? あやめちゃん知ってるなんか」
「もう五月ですよ……」
「そっか……、だよね。のがしたな……。じゃあ、来年こそ、見に行こうかな……」
「桜、お好きなんですか?」
筒井あやめは、何とも言えない表情で、きょとんとした。テレビ画面の主人公らしき女性が、悲しそうに涙を流していた。
飛鳥は、微笑んだ。
「世界一、特別な花かな……」

       3

 五月も半ばに入った頃、齋藤飛鳥は坂根双葉と五番街へと買い物に出かけた。なぜだか、秋月奏も荷物持ちとして坂根双葉に呼び出されていたが。つまり、買い物へはいつもの三人で出かけた事になる。
 勉強がてらと、洋服やアクセサリーを気の済むまでショッピングし尽くし、五番街が夕焼けに染まる頃、三人はいつものレストラン〈サイド・バイ・サイド〉でディナータイムを迎える。
 秋月奏はメニュー表を見つめながらしゃべる。
「今度さ、スノボ行かね?」
 坂根双葉はくすくすと笑う。
「もうすぐ夏の入り口よ? タイミングが違うんじゃない?」
「あそ」
 秋月奏は笑顔で坂根双葉に中指を立てた。
「双葉って、スノボできたっけ?」
「お手のもんですよ~」
 秋月奏は飛鳥を一瞥する。
「飛鳥ちゃんは?」
 飛鳥は頷いて言う。
「すぐ死ぬ」
「はっは、な~んだよその答え」
「す~ぐ死ぬ、埋もれて」
 それから、三人はウェイトレスを呼び出した。
 秋月奏は表情豊かにウェイトレスを見上げて言う。会社と三人での会話以外は、全て英語での会話だった。
「いいお姉さん、ハンバーグはハンバーグでも、中にとろっとろのチーズが、入って、ない、ハンバーグだよ? この前は入ってたかんな、とろとろのが。ダイエット中なんで、頼むぜ」
ウェイトレスは「わかったわ」と答えた。
続いて、飛鳥が400グラムのステーキとブラックのアイスコーヒーを注文した。
店内は黄色いライトに満ちていて、テーブルクロスは全ての席が白に統一されていた。
坂根双葉は顔見知りのウェイトレスに、気さくな感じでチェリーパイとチェリーのショートケーキと、アイスカフェラテを注文する。
ウェイトレスは坂根双葉を見つめた。
「あねえ双葉、そんなにちぇりーがいいんなら、アイスカフェラテの上にチェリーも添えて、チェリーのオモチャでも添えようか?」
 秋月奏はその瞬間、ウェイトレスを真剣に見上げた。
「チェリーのオモチャもらえんの? 全員に? それとも、双葉だけ?」
 その場の時間が止まりかけ、やがてウェイトレスは唇を噛んで、躊躇(ためら)った表情で説明する。
作品名:誰にだってあるもの 作家名:タンポポ