マネージャー
「どうしたんだ、桃井」
ぱっちりと目を開いて、赤司君は驚いたような顔を見せる。中学時代に時々見た表情を懐かしく思いながら、だって、と私は言葉を継いだ。
「赤司君、黛さんのことはテツ君と同じような選手にしたのに、樋口さんのことは私みたいなマネージャーにしなかったじゃない。
てことは、幻のシックスマンと違って、諜報部員なんてホントは要らなかったのかな、って思って」
きっと困らせると分かっていても、どうしても訊いておきたかった。多分、不安だったんだ。今回は相手チームがアメリカの人たちだから、いつもほど精度の高い情報を集められなくて。
「適役がいなかっただけだと思うよ」
あの頃のように温厚な声で赤司君は答える。
「これはあくまでオレの意見であって、僕がどう考えていたかは正確には分からない。……自分のことなのに、おかしな話だけどね。それでもいいかい?」
「うん。続けて」
「ありがとう。
オレが思うにだけど、僕は最初からシックスマンが欲しかったわけじゃなかったと思うんだ。ただ、黒子と同じような選手を見つけたから、彼を新型のシックスマンにした。彼にとっても、悪い話じゃないと思ったから。実際、才能の限界を感じて一度は部活を辞めた黛さんをレギュラーに引き上げられた」
「うん」
「けど、樋口さんは違う。彼は最初からマネージャーだったわけじゃない。桃井なら調べはついてるだろうけど、元々は選手だった。
自分の意思でマネージャーをやってくれていた君と違って、彼は不本意だっただろう。そんな人に、本当は選手に戻りたいであろう人に、キセキのマネージャーと同じくらい有能になれなんて、オレは言いたくない」
赤司君が一瞬険しい顔を見せる。
ストバスのチームとはいえ、念願叶って選手に戻れた樋口さんにひどいことを言った、今回のリベンジマッチの相手への怒りが隠せないのだろう。
「すまない。怖い顔をしていたかな」
眉間に皺を寄せていた赤司君が、微苦笑をして、すぐに表情を取り繕う。
男子相手ならそんな気を遣わないくせに、と寂しく感じなくもないけれど、気を遣われているのが分かるから悪い気はしない(好きな男の子よりは距離を感じるけど、あの幼馴染よりはマシ)。
「ううん、大丈夫。話してくれてありがとう。
てか、やっぱりもう一人の赤司君も仲間思いなんだね」
「どうかな。
前回大会の決勝戦でのチームメイトの扱いは目に余るものがあったと思うけど」
「男の子同士で本気で戦ってたら、冷たい行動になったり、言葉が荒くなったりなんて普通でしょ。
誰も気にしてないって実渕さんは言ってたよ」
「そうか。桃井は実渕と交流があるんだったね」
「うん。美容のこととか教えてもらって、お世話になってます」
「こちらこそ、うちの実渕がお世話になってます」
冗談っぽく言って、赤司君は小さく笑う。私もつられて笑う。
普段は大人っぽい彼の笑顔が意外と幼くて、こういうところが実渕さんから見たら可愛いのかな、なんて思ったのは内緒にしておこう。