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【FGO】やくそくとほし

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「斎藤さん」
 行き交う雑踏を縫って人影が、待ち合わせ場所にいる自分の方へ近づいてくる。実は、近くまで来る以前に、もう見つけていた。
 久しぶりに会う藤丸立香は、少し大人っぽくなったように感じる。初めて出会った時は、まだ本当に子供だった。それなのに、子供らしからぬ大人びた振る舞いが印象的で、それでも時々本当に年齢相応の顔を見せることに、逆にホッとしたものだ。
 それが、今や成人を越えたと言う。
 時々ぽつりぽつりと連絡を交わしてはいたものの、直接会うのは本当に数年ぶりだ。
『サ〇〇ロ系のお店の割引券貰ったんだけど、飲みに行きませんか?』
 立香から送られてきたメッセージだ。
『いいね。そういや、もう酒飲めるんだっけ?』
 深く考えずにそう返信した。
『もうとっくに二十歳越えたよ~』
 瞬時に返事と泣き顔、怒り顔のスタンプが送られてきた。そこで初めて数年会っていないことに気付いた。
 さて、変わったか、変わってないか。変わったと言われるだろうか、変わってないと言われるだろうか。
 実際に会ってみて、変わったと思った。でも、それと同じくらい変わってないとも思った。人混みの中でもすぐ見分けがついたくらいだ。変わってない……。いや。やっぱり少し大人っぽくなっただろうか。
 姿の変化など関係なく、数年抱え続けた想いは、どうやったって消えないというのが痛いほど判る。
「斎藤さんが、大人っぽくなってる!」
 待ち合わせした飲食街。出会いがしらの第一声に、結構な大声でそう言うのは、子供っぽい頃と変わらないか。
「立香ちゃんも大人っぽくなったと思ったけど、そうでもないかなぁ」
「え、ウソ? もう社会人なのに?」
 スーツ姿をどうだ、と両手を広げて見せてくる。
「七五三じゃないんだから」
 くくく、と笑って見せると、ぷぅ、と子供っぽく頬を膨らませた。

「こっちこっち」
 立香の案内で一軒の店に入る。混んではいたが、運よく席が空いておりすぐに通された。
「さて、最初に何飲む? やっぱりビールかな。ソーセージとかいっぱいあるよ」
 注文用のタブレットを操作して、斎藤にも見えるように傾けながらメニューを捲る。
「やっぱり〇番搾りかなぁ」
 立香が商品の画像を押して注文をカートに入れる。
「じゃぁ僕は黒ビールで」
「おお~。カッコイイ~」
 揶揄うように言いながら、立香が斎藤の注文をカートに入れた。
「あとは、やっぱりソーセージ食べようよ。あとねー、ポテト」
 注文が若者だ。肉、油系のセレクトが多い。
「脂っぽいのも良いけど、野菜入れて、野菜」
「それって、もう歳……?」
「悪かったね」
「ウソウソ。まだそんな歳じゃないでしょ。疲れてるんじゃないの?」
 そんなやり取りをしながら、立香が生野菜ではなく火の通ったメニューを選んで注文した。
「注文、と」
 確定ボタンを押して、タブレットをスタンドに戻した立香は、斎藤の方へ向き直ると一転、真面目な顔になる。そしてゆっくりとテーブルに肘をつき、手を組んで口元に当てた。周りのテーブルのザワザワとした賑わいと、店内に流れる音楽が一気に押し寄せてくるような気がした。やがて口を開いた立香は、ひどく深刻な声で言った。
「ねえ、はじめちゃん。今気が付いたことがあるんだけど」
 はじめちゃん、と呼ぶのは普段はしないことだ。出会った始めのうちは、自己紹介で自分から「はじめちゃん」と呼んでなんて言っておいてすぐに撤回したのを揶揄っていたのだが、それ以降は几帳面なほどに斎藤さん、と名字で呼んでくる。そう言う所が、何故だかずっと引っかかって忘れられなかった。
「え、なに?」
 立香の様子が尋常ではない。その勢いに、名前呼びになったことを問い詰めるのを忘れた。
「ここのお店さ、キ〇ン系じゃない?」
 立香の言葉が一瞬判らなくて、ぱちくりと目を瞬く。
「持ってるのサ〇ポ〇系の割引券だから、ここじゃダメなんだよね」
 そう言えば、さっき見たメニューに載っていたのは、中国の神獣がついたラベルである。本来ならば燦然と輝く黄色い星が商品についていなければならないはずだ。
「……確かに」
 言って、思わず二人でくくく、と笑う。
「店、絶対ここだと思い込んでた」
「僕も微塵も疑ってなかったよ」
「割引券使えますかって、出して確認しなくてよかった~」
「店員さんも困ったと思うよ」
 きっと微妙な空気が流れただろう。
「お客様、困ります! お客様! って言われてたよね、ソレ」
 二人で静かに堪えながらも大爆笑だ。息切れして腹筋と頬が痛い。
「また次、行こうよ」
 立香が笑いすぎで目尻に滲んだ涙を払いながら、そう言う。へぇ、僕とまた会ってくれるって? そいつは嬉しいことを言ってくれるね。僕が、どんな想いをアンタに抱えてるか、知らないのに、ね。
「良いね。ああ、また次回」
 斎藤は自分がしめしめ、とほくそ笑んでいないかを少し心配しながら、立香に笑いかける。そんな斎藤の思惑を知っているのか知らないのか。立香がちょうど運ばれてきたビールグラスを持ち上げる。そして、二人でグラスの縁をかちん、と合わせた。それに合わせて黄色い星が宙に飛んだ気がした。約束だよ、とでも言いたげに。

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作品名:【FGO】やくそくとほし 作家名:せんり