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ドアをノックするのは誰だ?

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コンコン。
「先生、こんにちわ~泉でェ~す」

コンコン。コンコン。
「先生?前お話ししていた短編のネタまとめてきたんですよぉ~」

コンコンコン。コンコンコンコンコン。
「先生~今日のお茶菓子はフロランタンですよ~」

ドン。ドンドン!
「ちょっと先生!いるんでしょう!?」

ドンドンドンドンドン!!!
「先生!せんせえ~っ!?」


「ああああもううるっさいなァ!!」
「うわっ!」

今ありったけの力でドアを叩こうと拳を振り上げた泉は、急に開いた内開きの扉にバランスを崩してたたらを踏んだ。体勢を立て直せば、これ以上ないほどの形相で睨みつける露伴が仁王立ちしていた。

「君さァ!ちょっとは近所迷惑ってものを考えないのか!?ドンドンドンドンと……ウチのドアは太鼓じゃあないんだぞ」
「近所迷惑って言ったってここら辺は他に家もないじゃないですかぁ。っていうか、先生が早く出てきてくださったら私もこんなはしたないマネしないんで済んだんですよ」

言い返されて、露伴は舌打ちをした。素早く扉を閉めようとしたが、すでに泉の足と腕は内側に入り込み、甘い焼き菓子の香りを漂わせる小さな箱を振っている。

「新作ですよぉ~一緒に食べましょ?」

ね?とあざとく小首をかしげて言われて、露伴は再び強く舌打ちをした。

***

そして今、サンルームの椅子に腰かけ、二人は紅茶に口をつけていた。
何度か通ううちに泉はすっかり露伴の好みを把握しており、ダージリンセカンドフラッシュをほぼ完ぺきに淹れることができる。そのコクのある濃厚な舌触りにに露伴は内心再び舌打ちをする。

「今回のテーマは災害でしたよね?確かに今竜巻や水害なんかが世界的に増えているそうですし、先生のハードな作風にもあっていると思います。」

フロランタンは香ばしいナッツと軽いキャラメルが一つにまとまり、セカンドフラッシュの香りに深みを与えている。どう考えてもこの紅茶に合うように選んできたに違いない。
泉の打ち合わせなのか世間話なのかわからない話は続く。

「ニュースと論文は集めてきたんですけど、やっぱりちょっと難しくって~。こういうのってアメリカとかの方が本場ですし」

露伴はとりとめのない話を右から左に流しながら、紅茶を飲みフロランタンをかじりそしてプリントアウトしてきた資料を広げる泉をぼんやり目に映している。

この目の前のおしゃべりな女性が、自分の食の好みを把握しているのが、露伴には妙に腹立たしい。食だけではない。本や洋服、香り、仕草。そういう露伴の心を動かす様々なもの。
そういうものは、今までは露伴の心の中にあるだけのものだった。他人の秘密などやろうと思えば例のギフトで簡単に覗けてしまう。だが、自分自身の心の中を読むことはできない。読まないようにしている、という方が正しい。だってそれはひどくつまらないことだから。

「去年は竜巻で飛ばされた家が200件ほどあったらしいですよ。まるでオズの魔法使いみたい」

他人が自分のことを知っていようが知らなかろうが、露伴にはどうでもよかった。自分は一人で生きるものだと思っていたから。
だが今目の前には、おそらく親を除いて一番露伴を知っているであろう人間がいる。ある意味それは不思議なことだった。

なぜ?彼女は自分のことを知ろうとしているのだろうか。
一部を理解してはいる。偏屈で気難しいともっぱらの噂の人気漫画家をできるだけうまく扱いたいから。それはそうだろう。それは今までの担当者も一緒だった。

でも、なぜ?自分は彼女のことを知ろうとしているのだろうか。
好きな食べ物、本や洋服、香り、仕草。今心の扉を開いてしまえば、きっとすぐにわかるだろう。

でもそうしないのはなぜ?

なぜ、嫌がりながらも家のドアを開けた?
なぜ、お茶の準備が終わるまで文句を言いながら待っていた?
なぜ、彼女のどうでもよいおしゃべりを遮らない?

「なぜ?」という好奇心を、紅茶を味わうように楽しんでいるのは、なぜ?


おそらくそれは、ギフトで覗けない扉の奥に潜んでいるのだろう。露伴も知らない心の扉の奥に。

そしてその扉を叩くのは、目の前で三杯目をおかわりしている女性である、ということを認めざるを得ない。

露伴はもう一度内心舌打ちをして、紅茶を一口含んだ。


「それで私サメ映画たくさん見たんですよぉ~結構面白いですね、あれ」
「おい待て、なんだって?なんでそんな話になるんだ?」

初夏の午後の風がドアをやさしく開けていく。



『ドアをノックするのは誰だ?』