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放任主義

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 才能がある後輩には、枠に嵌らずに思う存分暴れてほしい。たとえそれが、悪童だの暴君だの呼ばれるような悪ガキ共でも。
 だから、自分が主将を務めるチームでは後輩に自由にやらせている。他では実力を発揮できずに腐ってしまいそうな「出る杭」共も、自分の下では伸び伸びとプレイさせてやれていると自負している。
 それは、マネージャーであっても例外ではない。
「ただいま戻りましたー!」
「おお。おかえり、桃井」
「いねえと思ったら、またどっか行ってたのかよ」
 遅れて体育館にやってきた桃井に、若松が不満そうな顔をする。
 普通のマネージャーだったら、最低でも選手と同じ時間には来て身の回りの世話をすべきだろう。けれど、自分は桃井をそんな普通の枠に嵌める気はない。
「ええねん。それがこいつの仕事やから」
 若松を宥め、桃井に今日の「仕事」の成果を訊く。
「誠凛さんはどうやった。ええデータ取れたか?」
「はい! もちろんです!」
 誇らしげに差し出されたノートを受け取り、ぱらぱらと中を覗く。
 びっしりと書き込まれた他校の選手のデータ。これが桃井の大事な「仕事」だ。
「各選手の性格や癖、それに今後身に着けるであろう特技も記載してあります」
「おおきに。大いに活用させてもらうわ」
 礼を言うと、桃井は一層誇らしげな笑みを見せる。が、その笑顔が一瞬だけ陰った。自分はどうも、他人のこういう小さな表情の変化に気づくのが得意らしい。
「なんかあったん?」
 と問えば、どうして分かるのかと驚いた顔をされる。
「今吉さんって、ホントに人の心が読めるんですね……」
「そないなことまで出来るわけないやろ。
 けど、なんかあったんは認めるんやな」
「……すみません。実は誠凛のカントクさんに喧嘩売るようなことしちゃって」
 ばつが悪そうに言われ、今度はこっちが驚く。桃井は人当たりがよく、誰かに喧嘩を売るような子ではないと思ってたからだ。
 聞けば、中学時代から好きな男子が所属するチームに女子の監督がいたことが面白くなかったのだという。なるほど。恋愛事で厄介事を持ち込むタイプだったか。でも。
「好きな子がおるチームでも、遠慮なくデータは取るんやね」
「はい。敵チームである以上、絶対に手は抜きません。
 彼は手加減されることを一番嫌うから」
 はっきりと答える桃井の目は、もう選手のものと変わらないそれだ。
 だったら、自分が選ぶ答えは一つしかない。
「ええんやないか? 女子同士でバチバチやるのも」
「え。いいんですか?」
「盤外戦やって勝負のうちやん。案外喧嘩しとるうちに、向こうさんがポロっと情報漏らすかも知れへんし。
 試合に支障ない範囲やったら、好きにやったらええよ」
 いつも通りに放任主義を明言する。
 桃井はぽかんとした顔をしたあと、にっこりと不敵な笑みを見せた。
「分かりました。私なりのやり方で、チームに貢献できるよう頑張ります」
「おお。期待しとるで」
 はい、と元気よく頷いて、桃井は通常のマネージャーの仕事に戻る。
 これでいい。自分は角を矯めて牛を殺すようなことはしない。
 活き活きと仕事に励む桃井を見て、そう再確認した。
作品名:放任主義 作家名:pal