後進
誰かの成長を見るのが好きだ。
子供の時から父が運営するジムで体を鍛える人達を見て、そう思っていた。最初は筋力も持久力もなくて自信なさそうにしていた人が、トレーニングを続けることで心身ともに逞しくなっていく。その変化を見るのが好きだった。
だから今、学校のバスケ部で自分が育てた選手たちの成長を見るのが格別に嬉しい。皆が皆ダイヤの原石というわけではないけれど、脱落者も多い中で必死に食らいついてくる彼らの姿を見るのが、私の一番の喜びだ。
「だからね、私は降旗君のことも評価してるわけよ」
「いやいや、ちょっと待ってください」
否定するようにぶんぶんと手を振るのは、後輩部員の降旗君。いつも自信なさげで子犬みたいに震えているけど、ここぞという時にはきっちりと決められる冷静さも持った子だ。
「オレなんかより、火神や黒子のほうが絶対いいですって!」
「そんなことないわよ。
大体、火神君はセンス任せだから教育するのに向いてないし、黒子君は影薄すぎて部員に認識されないじゃない」
「それは、そうですけど……」
「あの二人のほうが選手としては優れてるってのは否定しないわ。
それでも、私は次期キャプテンに一番向いてるのは君だと思うの」
う、と困ったような呻き声を上げて、降旗君は困ったように眉を八の字にする。
自分たち三年生が卒業した後のキャプテンを誰に託すか――。三年生の間でその議題が上がった時、私は真っ先に降旗君の顔が浮かんだ。だけど、本人はどうしても自信が持てないらしい。ま、普段の彼から予想がついたことではある。
「降旗君はさ、自分は日向君みたいなキャプテンにはなれないって思ってるんでしょ」
「そりゃあ、オレはキャプテンみたいにバシバシ人を引っ張っていけるようなキャラじゃないですし……」
「でもさ、伊月君なら?」
降旗君がはっとしたように顔を上げる。ここが勝負だ、と直感的に思った。
「何も日向君みたいな人だけがキャプテンに向いてるわけじゃない。
私は伊月君だってキャプテンになろうと思えばなれるし、降旗君は伊月君みたいに冷静な司令塔になれると思ってる。
直情的な火神君や意外と主張が強い黒子君が暴走しちゃった時、皆が冷静でいられなくなった時、その場を鎮める能力が君にはあると、私は思ってるのよ」
降旗君の目が揺らぎだす。自分にそれが出来るかどうか、探っているのだ。
まだ迷ってはいるようだけど、もう完全に諦めている顔ではない。
「まあ、まだ少し先の話だし、そんなに焦ることはないわ。
でも私は本気だから、考えておいてね」
私が手を振ってその場を立ち去ると、降旗君は明らかにほっとした顔をした。それでも、その目はもう伊月君を追っている。
自分に合ったモデルを見つけた人は強い。降旗君なら、きっと私が望む通りの成長を見せてくれるだろう。
少しずつ自信をつけて、逞しくなっていく姿を見せてほしい。それが、後進を育てる者にとっての一番の喜びだと思うから。