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My Hero

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 女みたいな顔だ、と昔からよく言われた。
 ただでさえアメリカでは、自分のようなアジア人はひ弱に見られる。だから、大好きなバスケでも相手に嘗められることが多く、子供の頃はなかなか親しい仲間を作れずにいた。
 転機になったのは、通い始めたばかりのバスケコートで、大人たちの対戦を見たことだ。
 女みたいな顔、どころか、正真正銘の女の人が、屈強なアメリカ人男性数人を相手に圧勝していた。豪快なダンクを決めるわけではないけれど、彼女が放ったボールはすべて、相手にブロックされることなく綺麗な放物線を描いてゴールに吸い込まれる。お手本のような美しいシュート、対戦相手との性差を感じさせない確かな実力。一瞬にして、オレはその人のプレイに惹き込まれた。
「すごいね。彼女は何者なの?」
 数少ない友人に訊くと、彼女が元プロのバスケ選手で、皆からはアレックスと呼ばれていることを教えてくれる。
「女だけど、かっこいいよな。だから皆、彼女と仲良くなりたがるんだ」
 対戦を終えたアレックスの周囲に、自分と同年代の子供が集まっていく。女の子も、男の子も。
 ――そうか。強ければ皆に認められるんだ。
 天啓を得た気持ちだった。

 それからオレは体を鍛え、バスケで強くなり、ついでに喧嘩でも強くなった。
 相変わらず初対面の相手には、女みたいだ、アジア人だとバカにされることもあったけど、通っているバスケコートでは徐々に実力者として認められていった。
 アレックスとも親しくなった。彼女は日本のアニメが好きだとかで、オレのような日本人の子供にも優しかった。
「いいか、タツヤ。
 私はお前の熱いところも嫌いじゃないが、試合で熱くなりすぎるのはダメだぞ。
 勝つためには冷静さも必要なんだ。心はHOTでも、頭はCOOLにな」
 オレと会話する時、アレックスは主にアニメで覚えたという日本語で話したがった。少年向けのアニメで覚えたのだろうか、日本語になった途端に男言葉で話すのが可笑しかったが、男勝りな彼女には不思議と似合っていた。
 アレックスは大人の男性よりも、女性と子供によく好かれる。なんといっても、そこらの男よりかっこよく、女性と子供には優しいからだ。本人も満更ではないらしく、かわいいと思った相手にはすぐキスしたがる変な癖がある。それはオレも例外ではなく、オレと、それに後から仲良くなった日本人の弟分にとって、アレックスはバスケの師匠でもあり、ファーストキスの相手にもなった。

 時は流れて、高校生になったオレは生国である日本に帰ることになった。一足先に日本に帰っていた弟分のタイガとバスケの大会で戦うことになり、アレックスとはその大会の期間中に再会した。
 それまでの間に弟との才能の差を知り卑屈になっていたオレは、観戦に来てくれたアレックスに反抗的な態度を取ってしまった。
「もう子供扱いしないでくれ」
 なんて言ってみせたけれど、実際のところ、怒りの原因はアレックスが自分よりタイガを気に掛ける様子を見せたからだと思う。母親の注目を一身に浴びていた一人っ子が、後からやって来た弟に母親の関心を奪われて拗ねたようなものだ。これでは子ども扱いされても仕方がない。第一、彼女とタイガを引き合わせたのは自分なのだからおかしな話だ。
 アレックスもオレの本音には気づいていただろう。けれど、オレがタイガのいるチームに負けた後で謝りに行ったら、
「試合前の選手なんて、皆ピリピリしてるだろ」
 と彼女は笑って流してくれた。
 高校生になって大人になったつもりでいたけれど、日本に来てからなぜかこの女顔のお陰でモテるようになってアレックスに近づいたつもりでいたけれど、今もまだオレにとって彼女の背中は遠いらしい。身長だけは、少し追い抜いたのに。
「いい試合だったよ、タツヤ。さすが私の愛弟子だ」
 昔とは逆にアレックスのほうがオレを見上げてきて、昔と同じように乱暴に頭を撫でられる。
 秀才にしかなれなくても、天才の弟に敵わなくても、そのことで卑屈になるような女々しい自分は捨てようと思った。誰よりも男前でかっこいい彼女の、愛弟子の名に恥じないように。
作品名:My Hero 作家名:pal