Kiss
キス。
唇と唇だったり、おでこだったりほっぺただったり。
昔はいっぱいしたよね。
おやすみって言う挨拶の代わりとか、ふざけて唇に押し付けただけとか。いろんなキス。
そういえば、ぼくからするよりも兄さんはキスをいっぱいぼくにくれた。
多分、母さんからお休みのキスをもらえなくなって、兄さんがかわりにしてくれたって言うのもあるんだろうね。
兄さんの柔らかかった唇の感触。今でもはっきり覚えてる。
なつかしいな。
でも、ときどき思い出すと悲しくなるんだ。
ぼくにはもう、味わえない感覚だから。
こうして兄さんが眠っているところを見ていても、ぼくにはキスを贈ることもできないんだ。
兄さんを責めてるわけじゃないよ。
ただね、ときどきもう一度兄さんの唇に触れたい。そんな適わない願いを抱いてしまうだけ。
おかしいかな。もうぼくたちお休みのキスをほしがるほど子供じゃないのに。
この気持ちはなんなんだろうね? 兄さん。
寂しいのかな? 恐いのかな?
小さい頃、寝る前に必ず感じたいくつもの不安。それを払拭してくれたのがキスだったから。
でも、今抱いているこの気持ちはどれも違う気がする。
兄さんを見ていると、ないはずの心臓がきゅーってなにかに握り締められるようになるんだ。
そして、無性に兄さんのキスがほしくなる。
どうしてなんだろう?
兄さんなら分かるのかな。
ぼくは、どうすればいいの?
兄さん。