Angel Beats! another story
そして何かするのか後ろへ向いた、と思った途端に。
「はい、ビーフシチューおまちどおさま」
「えっ…はやい!」
少年の前に食券機で見たものがお盆の上に並べられていた。
ビーフシチューとパンだ。
「麻婆豆腐ください」
「うぉ!?」
時同じく、いつの間にか隣に立っていた生徒会長に驚く。
生徒会長とおばちゃんを交互に見る少年を放っておいて、流れ作業の様におばちゃんに食券を手渡しする。
「いつものだね、はいよ」
「有り難うございます」
「は、はやい!」
真っ赤に染まった食べ物が見える。所々に白い欠片のようなものが見え、見たことのないものだった。
得体のしれないものだが美味しそうな匂いがしていた。
「ほら、行くぞ」
顎で行き先を示される。食券機に驚いたり注文の物を早く出すおばさんに驚いたが、今度は机と椅子の量に驚かされる。一体何人分なのだろうか。
お盆を取ったのを見ると生徒会長はゆっくりと向かっていき、少年は早足で向かい横に並び歩いた。
「お前が知りたいことを食べながらでも話すか。何が知りたい?」
「…、ここは天国なのですか?」
少年はここに来る前に死んでいる事を自覚している。なのに生前と変わらず生きている。
それこそ奇跡が起こらない限りこうして歩いていることなんてない。
そして机に食べ物を置き椅子に座ることなんて無い。
生徒会長は少年が座ったあとに向かい側に座り質問に答える。
「そうだな、ここを天国と言う奴もいれば地獄とも言う奴もいる。お前はどう感じる?」
「……分からないです…。でも生きている前と変わらないのであればある意味地獄なのかもしれません」
視線を下に落とす。映っているのはビーフシチューとパンらしきもの。シチューからは湯気が出ておりそれを嗅ぐ度に食欲がそそられる。
「どういう人生を歩んできたかは俺には分からないが、少なくともここは食べ物には困らない世界だぞ」
「しかしお金が僕には…」
「今は無一文だが教員に言えば奨学金が貰えるぞ」
「しょうがくきん…?何ですか、それ…」
「…分かりやすく言えばお金を借りられる、ということだ。話は食べながらでもしよう。腹減ってるんだろう」
「…はい。それではいただきます」
スプーンを手に取り、シチューに入れる。
柔らかくとろりとした感触がスプーン越しでも分かる。
「あとでお金返しますのでよろしくお願いいたします」
「返さなくても良いぞ。言えば無限に借りられるんだからな」
まるで借金を踏み倒すかの様に生徒会長は言う。
「そんなことしたら返済できずに悪人に目でもつけられて死にますよ」
「この世界は死んでも死なないし腹は減るし眠くなるぞ。それに返済もしなくても良い。ただ教員に変な顔されるがな」
真っ赤な麻婆豆腐を蓮華で掬い次々に食べていく。
かなりの量があったはずだが既に半分以下に減っている。
「遠慮せずに食べろよ?」
「ああ、はい」
会話をしている手前、食べることに躊躇していたが許しが出る。
シチューに入ったままのスプーンを掬い上げると大小の野菜が絡み合い山のようになっていた。唾を呑み込みそれを口に運ぶ。
「うっ…!?」
口に入れた瞬間、頬の内側と舌が痺れた。
言い様の無い刺激に悶絶してしまう。
作品名:Angel Beats! another story 作家名:幻影