高杉の話
高杉の騒ぎようと言ったらなかった。
何も見えていないようで、手当たり次第に何でも斬りつけるのがいけなくて、街中で大騒ぎになったためにやむを得ず昏倒させて連れ込み宿に引きずり込んだら、いつの間にやら夜もとっぷりと更けていた。
宿のおかみに気付けの冷水と手ぬぐい、冷酒、それから包帯を替えるために新しいさらしを頼んだところ、相当に胡散臭そうな顔をしたがどうやら不名誉な勘違いをしているわけでなく、高杉の人相に覚えがあったからかもしれない。
それでも高杉は今、顔の半面を布で大きく覆われているし、酷くやつれこそげた面をしているから暫くは大丈夫だろう。
この宿も坂本が数度でなく女を口説いた後利用したことのあるもので、そのよしみであろうかおかみも見ぬふりをする風体であった。
予想通り、小僧によこさせた中には残り物の冷えた白飯と漬物が添えられていた。
080229