たからさがし
かみさまかみさま。
たからものをみつけたんです。
かみさまかみさま。
たからものをひろったんです。
かみさまかみさま。
たからものをあげたいんです。
ポケットにしまったたからものを、ソランはぎゅっと、にぎりしめた。
遅いな、とつぶやいたニールに刹那は新聞紙に落としていた目を上げた。
「なにがだ?」
「いやー、ソランが公園行ったんだけど、もうお昼になるのに帰ってこないからさあ」
「ああ……」
そういえば、そうだ。朝ごはんを食べてすぐ、公園に行ってくると言って家を飛び出したソランが帰宅しない。日曜の朝から元気なことだと刹那は感心したが、子供はそんなものさ、とニールが笑った。
刹那は新聞に没頭していたため気づかなかったが、もうお昼だ。にわかにそわそわと身体を動かし始める。
「迎えに行った方がいいか?」
「いやあ……。まあもう少し待とうぜ。腹が減れば帰ってくると思うし」
「あんなかわいいソランだ。もしかして誘拐されたかもしれない」
「お前なんですぐそっちに思考が行くわけ!」
「お前こそなんでソランがかわいいことがわからない!」
「人聞きの悪いこと言うな!ソランがかわいいことくらいおれだって知ってるに決まってんだろ!」
「なら迎えに行くぞ!ソランが誘拐されていたら誘拐犯を殺す」
「おい目がマジだ」
刹那の据わった目と先走りそうな思考回路をどう宥めようかと思案した時、玄関のドアが開閉する音と、ただいま、というちいさな声が聞こえた。ソランだ。
「ソラン!!」
刹那が急いで駆け寄ると、ソランが顔を上げた。
その眉が垂れ下がっている。泣きそうな顔をして「せつなぁ」と震える声で刹那の名前を呼んだ。
「どうした、ソラン。なに泣いてるんだ。いじめられたか?」
「ううん……」
「それとも転んだか?怪我をしたか?」
「……ううん」
「ソラン?」
ふるふると首を振るばかりのソランに、刹那がしゃがみこんで顔を覗き込む。
「どうしたソラン。言わないとわかんないぞ」
その刹那の背後からニールも声をかける。ソランの落ち込みの原因を察してやることができない歯がゆさに、困った顔をしていた。
「んとね……」
ソランはポケットをごそごそと探る。両方のポケットと、尻ポケットを確かめてから改めて肩を落とした。
「あのねー」
「うん」
「いしっころ、おちててね。きれいだった」
「うん」
「ニールと、せつなに、あげようとおもったのに、おっことしちゃった……」
じわわ、とソランの目に涙がたまる。
どれ、とニールがポケットを探ると、内側の布に大きな穴が開いていた。ここから石は滑り落ちてしまったのだろう。
「あー、ごめんなソラン。気づかなかったぜ。あとで繕っておくからな」
「ん、うん」
ニールがソランの頭を撫でた。その動作に感極まったのか、ソランが大粒の涙を零してわんわんと泣き出す。刹那がソランを抱きしめ、落ち着くまで背中をとんとんと叩くことにした。
「そんなに、気にするな。ソラン」
「だってえ」
「また拾えるさ。ソランが拾ってきたんだからな」
「もうないもん……」
「なんなら、いまから探しに行くか?」
刹那の言葉にぴくりとソランが反応した。
涙と鼻水を盛大に流した泣き顔をきょとりと驚きに染めて、刹那を見る。ん?と首を傾げた刹那にニールがぽんと手を叩いた。
「そりゃいい。そのままついでに昼飯食おうぜ。どっかファミレス入ってさあ」
「石を見つけたらそれを入れる箱でも買うか」
「おお、どうせなら大きいやつな。ソラン、まずはズボンを履き替えちゃおうぜ。また拾った時になくさないようにな」
いそいそと動き始めた大人たちに手を引かれ、ソランはぐしぐしと袖で涙を拭った。
当のソランよりもはしゃぐ刹那とニールに呆気にとられてしまう。
「宝探しだな!」
目をまんまるに開いたソランに、刹那とニールが微笑んだ。
かみさまかみさま。
たからものはおとしてしまいました。
かみさまかみさま。
でもいいんです。
たからものは、ここにありました。
たからものは、いつもいっしょです。
ほんとうはさがすひつようなんてもうないけれど、ソランはとても、うれしくなりました。