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過保護な花守

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孫六と陸奥守の逢瀬は、最後に宿へ雪崩れ込むことが多い。
 今回もその例に漏れず、熱を分け合った後の穏やかな気怠さに身を委ね、ぽつりぽつりと互いの近況等を語らい合った。
「臨時店舗?」
「おん」
 曰く、三月下旬から四月上旬の約二週間、万屋街(よろずやがい)の川沿いに期間限定の茶屋が設置されるらしい。
「万屋街の川沿いに植えられちょる木は、ほとんどが桜ながよ。やき、毎年花見客で賑わう時期にはこじゃんと屋台が並んじょる」
「ほぉ」
「おんし、川沿いの桜が咲いちょる所を見るがは初めてじゃろう? あれはしょうまっこと綺麗やき、一目見に行っとうせ」
「『一緒に行こう』ではないのか」
「わしは仕事があるきに」
 陸奥守は、万屋町(よろずやちょう)の小さな茶屋で働いている。なお、万屋町は各國ごとに一つずつ設けられている小規模な商業地区のことだ。故に万屋町を利用する客は、ほぼその國の審神者と刀剣男士に限られる。
 対して万屋街は、度々増改築を繰り返し、今では全ての審神者と刀剣男士及び政府関係者が利用する一大商業地区となった。
「川沿いに出す店は、万屋街と万屋町の茶屋が協力して切り盛りすることになっちゅう」
「ふむ」
「ほんで、今年はわしが臨時店舗へ行くことになりゆう」
「ほう」
「――やき、桜が見頃の間は時間がとれんと思うがよ」
「成程な」
「すまんの」
「いや、仕事があるなら仕方がない。それに、桜は本丸でも見ることが出来るからな」
「あー……ほうじゃのぅ」
 陸奥守の籍は今も本丸にあるが、現在は本丸を離れて万屋町で働いている。
 審神者も他の男士たちも理解を示し応援してくれているが、そうした彼らの気遣いに甘えている現状を申し訳なく思う気持ちはあった。
「――ちなみに」
「?」
「その臨時店舗とやらに、俺が客として行く分には問題ないか?」
「あー、まあ……わしは仕事があるきに構えんけんど」
「そちらの仕事が終わってから、こうして会うのは?」
「………………そん時の体力次第じゃ」
「承知した」

 ――さて、そんな会話をした数日後。
「すまんが、『花見団子せっと』をもう一つ頼む」
「――っおんしえい加減にせぇよ! どればぁ食う気ながよ!?」
「はっはっは、すまんな。団子も茶も旨くて手が止まらん」
「~っ……!」
 ――と。
 川沿いの臨時店舗では、そんな夫夫漫才のようなやり取りを繰り広げる二振りの姿が見られたとか。
 そして、孫六は初日から最終日まで毎日欠かさず臨時店舗へ通い続けたと言う。

 《終わり》
桜も呆れる溺愛ぶり
作品名:過保護な花守 作家名:川谷圭