クラクションは星になる
答えは案外単純なものだ。
色々頭を悩ませて、もうダメだと力を抜いた瞬間に「あっ」なんて。
あれだけ時間をかけて考えたのに答えなんてほんの一瞬だ。
沢田綱吉もよくそんなことを繰り返しては答えの単純さにさらにため息をもらす。
オレの悩んだ時間を返してくれよとまでは言わないが、ああ何でこんな時こそ働かない超直感。
まあ己の第六感を恨んでも何も始まりはしないが。
それでも沢田綱吉は疑問符とよく付き合ってきた方だと思う。
それはいつも周りの皆が一緒に考えてくれたから。
一人で分からない答えがあるならその時は皆で考えればいいじゃない。
今では当たり前のように言うけれど、一人だった頃はそれも出来なくていつまでも悩んでたなあ、と思い出す。
あの家庭教師との出逢いも悪いことばかりではない、むしろ良いことばかりだったと思える。
さて。
そんな昔を思い返すに至ったのは今も隣で息を潜めて眠る人。
部下でなくボスが運転する車なんてなかなかお目にかかれるものではない。ましてやボスを差し置いて寝てしまうなど。
しかし彼にハンドルを握らせるくらいなら誰もが「はい喜んで!」と自らハンドルを握るだろう。彼の運転はもはやトラウマである。
それに彼は部下ではない。
かといって友人でもなければ恋人というわけでもない。
では何か。
そう問われても、答える術を沢田綱吉は持っていない。
正確に言えば沢田綱吉は答えをすでに持っている。
ただそれを言葉にすることは出来ない。
それは彼が、雲雀恭弥がその答えに辿り着いていないから。
いつからだろう。
悩むこともなく常に0か1かで真っ直ぐに歩いてきたこの人が、突然迷路に足を突っ込んでしまったのは。
その原因が自分だなんて、一体誰が想像出来るだろう。
本当なら引き返すことだって出来たのに、彼は自ら足を突っ込んだ。
それから10年かかって一つ一つ看破していき。そして今、彼は出口の手前でぐるぐる回り続けている。
急に横入りしてきた車にとっさにハンドルを切った。
珍しくムキになってクラクションを鳴らす。
クラクションの矛先は二つだ。
一つは横入りの車。
もう一つは。
何を悩む、雲雀恭弥。
即決即断が貴方の専売特許だろ、何を迷うことがある。
歩き続けるから迷うのだ悩むのだ。
ほんの少し立ち止まれば、出口なんてすぐ見つけられるのに。
そろそろ0か1じゃなく、1を見たって、いいんじゃないか。
早く、早く気付けと気付かぬフリを続ける男にクラクションを鳴らす。
三度目のクラクションは、落ちてきたトンファーによって星になった。
作品名:クラクションは星になる 作家名:七篠由良