コントラスト・ラヴァー
日に当たらない白い肌。に、黒が点々と色づいていく。
まるで己の体に文字を書いているようだと思った。
お世辞にも綺麗と言えないその姿は、けれども白と黒が互いをより強く際立たせて。
ああ、きれいだ、と思った。
それが初めて見た彼の姿。
室内は30度を超えただろうか。
雲雀恭弥は身動き一つせず、目を閉じ紙の前に座り続けている。
己の最高の一筆が訪れる瞬間を、全神経を張り巡らせて待っているのだ。
よくもまあ飽きないものだと沢田綱吉はひそりと思った。
自分なら、正座だけであっても10分ともたないだろう。
それを雲雀恭弥はかれこれ3時間あの状態である。
そこだけが現実と遮断された空間だった。
侵しがたい。だからこそ惹き付けられる。目が離せなくなる。
普段は10分ともたない自分が、3時間も彼に付き合っている。
汗が、額から頬、頬から顎へとつつっと垂れ、ぱたり、と紙に染みを作った。
それでも彼は動かない。
一度飲み物を取りにでも行こうかと、意識をそらした。
刹那。
静寂が音とともに破られた。
ダンッと勢いのままに筆を下ろす。そのまま流れるように上へ下へ右へ左へ。跳ねて、飛ぶ。
先程とはまた違う意味で視線を奪われる。
圧倒された。迫力と力強さに。その中にもある繊細さに。一心不乱に白を黒で染める横顔に。
そしてその表情に。
心臓が呼吸を止める。
敵うわけがない。
叶うわけがない。
けれど、それで止められるというのなら誰も苦労はしないだろう。
並盛を心から愛し、書道にひたむきに恋をする白と黒の人間に
オレはかなわぬ恋をしました。
作品名:コントラスト・ラヴァー 作家名:七篠由良