好きだから虐めたい
「もう、ガマンの限界ですよ。」
落ち着こう。目を閉じて、深呼吸。
吸って、吐いて、吸って、吐け…ない?
口から空気が通っていない。目を開ける。
キスされていた。頭がついていかない。
俺はソレを口が塞がっていて息が出来ないだけだと認識し、舌が入ってきたあたりで目の前で起こることを理解した。
俺はこいつに押し倒されてキスされている。
…なんでだ?
いつものようにこいつんちにホットケーキを食べにきて、メイプルシロップのにおいがするなっていって頭なでて…そうなんだよこいつめっちゃいい匂いすんだよ。
だから押し倒されても匂いのせいで反応がついていけなかった。
そしてキスも、メイプルシロップの味のするキスは、甘くて、いい匂いがして、拒めなかった。
それと、拒んだらこいつがどんな顔するんだろうとか考えて、ちょっと見てみたいと思う自分に若干引いた。
良い年こいて馬鹿げてる。好きだから虐めたくなるなんてな。
「…あの、何も感じないんですか。」
「あ、悪ぃ悪ぃ。つい考え事しちまって。」
「むぅ…。」
あ、ほっぺた膨らませて怒るんだなこいつ、かわいいなあ。
もっと怒らせたらもっと可愛いんだろうか、なんて考えて、つくづくどうかしてると思った。
こんな年下相手になに考えてる。自分の年齢を考えろ。
そんなことを考えてるうちにもう一度キスされた。
俺はまたぼーっとメイプルシロップの甘さを感じていた。
「…僕下手ですか…?」
「ん?んなこたぁねえよ?」
「ちょっとこっちは真剣なんですよ?」
「ん?ああそうかい。」
ほらな、あんまり可愛い事言うからつい虐めちまった。
「サディクさんの…ばかっ!」
「うおあっつめてっ!」
なんだこれ…メイプル…?
もったいねえことしやがって…。
「おいマシュー、せっかくうめぇのにこんなことしたらもったいねぇだろバーローめ!」
「サディクさんがそんな素っ気ない態度取るからいけないんですよ!」
「あーあーあーもったいねえなあ…」
自分で手とかについたのを舐めとる。やっぱうめぇなあ。
「ちょ…!なんですかそれ…誘ってるんですか…。」
「さあな?」
我ながらどうよ。卑怯だなあ。
でもな、この年になると自分から一線こえるのは難しいんだよ。
怖いんだよ、自分より年の離れたやつが相手だとな。
こんなおっさん相手にするんだろうかとかな。
だから無理させるかもしんねえけど、お前がその一線こえてくれな。
俺の甘い災いさん。