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love letter

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「付き合ってくれないか」
唐突の告白だが、言った相手に正しく意図は伝わっていなかった。
「はい、どちらまで行かれますか」
クラウドがにこやかに応えた。明らかに「付き合う」を交際ではなく、どこかへ一緒に行くの意味に捉えている。だがこれは想定内だ。セフィロスは嘆息して次の作戦へ移行することにした。
「……ラウンジフロアのカフェまで、ついてきてくれ。俺一人でいるとゆっくりさせてもらえないからな」

セフィロスの告白未遂はこれが初めてではない。だがクラウドには全く通用しない。なので、シチュエーションが悪いのかと思ったセフィロスは色々試してみた。
世間ではこういう迫り方が流行っていると唆されて試してみた、壁際に手をついて「付き合って欲しい」と追い詰めたときには何を勘違いしたのか「地獄に……ってことですか?」と涙目にさせてしまった。何も悪いことをしていないのに健気に許しを請うクラウドは憐れで可愛らしく――セフィロスのただならぬ琴線に触れてしまったのはさておき、いじめたいわけではない。人目につかないところのほうがいいかとも思うが、パワハラの疑いを向けられることは避けたい。圧を与えないよう告白をしたいだけなのだ。言葉選びの圧倒的センスのなさにも一因はあるが、クラウドの「上官が自分に告白などするはずがない」という先入観が大きな壁となって立ちはだかっている。と、セフィロスは考えている。
クラウドはセフィロスに憧れて神羅へ来たという。憧れは好意を含んでいるはず。少なくとも嫌悪は抱かれていないのだから、いずれは通じるはず。
そんなわけでセフィロスはめげずにクラウドにアプローチを繰り返している。「付き合ってくれ」という名目で色んな場所へ連れまわされたクラウドは恐縮しきりではあったが、幾度か繰り返すうちに緊張は解け、遠慮は控えめになっていった。真意はともかく、少なくとも害意はないことは伝わっているようだった。

セフィロスは人とのコミュニケーションは不得手だと自覚している。なにせ少しばかり微笑んで「お願い」すれば大体のことは何とでもなったからだった。言葉少なでも周囲の人間がよきに取り計らうおかげで、セフィロスは自分の道理を通す術をそれ以外知ることなくここまで来てしまった。知らずに手にしていた美貌と権力の価値を持ち主は見誤っていた。そして不幸なことに、それはクラウドには全く効力を発揮しなかったのだった。
そんな不得手なセフィロスなりに手を尽くしているつもりだったが、今ではこのままでもいいとさえ思い始めていた。この温い関係のままでいてもいい、と。告白の真意が伝わらずとも満足しているつもりだった。

だが、そんな生ぬるい考えを打ち砕くものが現われた。最近1stに昇格したソルジャー・ザックスの存在である。
任務に同行した際にふたりは意気投合したらしく、会話の中で頻繁に名前が出てくるようになった。
曰く、こまめに連絡をくれる、一緒に食事をした、トレーニングに付き合ってもらった、やっぱり1stってすごい。
俺も1stなのだが、こまめに声を掛けているつもりだが、と大人げのない発言をしたことはない。だが、ザックスと自身の言動を比べてみてしまう。
ザックスはクラウドの二歳上、同じような田舎の出身だ。快活な物言いと態度はセフィロスも気に入っているし、そういうところがクラウドを惹きつけたのだろう。対してのセフィロスはクラウドの一回りは上の年齢、しかも上官の立場にある。生まれも育ちも重なるところはない。叩き上げの新進気鋭のソルジャーと歴戦の猛者たるセフィロスでは、どちらがクラウドの親近感を得やすいか。考えるまでもない。

セフィロスは生まれて初めて不安というものを感じた。
セフィロスは情というものに疎い。だが疎いなりに、友情が愛情に変わる事例がままあることは知っている。遅れを取りたくない。クラウドを見出したのは俺が先なのだから。
欲のないものを、処女地のような無垢さを最初に踏み荒らしたいという、浅ましい欲望では断じてない。そう言い聞かせて。



ラウンジのカフェは数人の神羅社員が寛いでいる。出入りが禁止されているわけではないが、ソルジャーや一般兵がこのスカイラウンジを利用することは少ない。ふたりは奇異の目で見られながらも、カウンターで受け取ったタンブラーを手に、空いている席へ座った。
「俺、あ……自分は初めてこのカフェを利用したであります。社員用というわけではないのですか?」
「兵士も社員の内だが。スカイラウンジの入場権限は申請すれば通るはずだ。わざわざ茶を飲むだけのために申請する兵は少ないだろうがな」
福利厚生のためのカフェは社員証があれば無料で利用できる。ただし軽食類は少ないため、セフィロスの言うとおり食べ盛りの兵の胃袋を満たすに足りず、一般兵が立ち入ることは滅多にないのだろう。ラウンジは元々他地域、他企業の要人とのミーティングに使用することを目的に設置されたフロアであった。今は完全に社員の園という雰囲気もあって、一般兵では出入りすら気後れしてしまうだろう。
セフィロスも滅多にこのフロアに足を踏み入れることはない。各幹部との接触の際に何度か来たことはあるが、カフェを利用するのは始めてだった。ここを選んだ理由は特にはなく、カフェはデートの定番だという定説に従ったまでである。

セフィロスはブレンドを、クラウドはホイップとキャラメルソースのかかったアイスカフェオレを選んだ。正しくはセフィロスが選ばせた。どうせ自腹を切るわけではないのだから高いものを選んだほうが得だ、と。普段はセフィロスの財布から出させるにも恐縮するクラウドだが、会社の金となると容赦はないらしい。とはいえカフェオレ一杯の慎ましい厚顔さである。
クラウドはフロアに来てからずっと恐々とした様子だったが、カフェオレの味は気に入ったらしく、目を輝かせて飲んでいる。口に銜えたストローは噛み跡があり、セフィロスはそんな発見すら嬉しく思う。
ただの顔の整った一兵卒。名前を知り、気質を知り、可愛らしい癖を発見する。その度にもっと知りたい、もっと近づきたいという欲求が募る。クラウドの何がセフィロスをそう掻き立てるのか、自身でも不思議だった。
作品名:love letter 作家名:sue