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大トロ十貫で良いよ

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 大トロ十貫で良いよ、カウンタ越しに請求した取引はあっさりと赤色の身になって返ってきた。昼過ぎの空いた時間帯、露西亜寿司。一つ摘んで、醤油を少し、口に入れると蕩けて行って、けれど味わう間も無く見返りを急かす上からの視線。味あわせてよ、手を振っていさめる、焦らす目的で二貫目を口に放り込む、と、怒る代わりに更に上物の大トロ一貫追加、にこり微笑むサイモンには敵わない、折原は熱いあがりに猫舌を引っ込め、簡潔に情報を頭の中で整理、なあに難しい問題じゃない、サイモンの要求した情報は至極単純な個人情報であった、簡潔、平和島の隣に居るドレッドの素性。
「田中トムって言ってね、」
 饒舌しつつ折原の脳内は違う情報の引き出しを開けている、寿司屋の気の良いロシア人が池袋の一介の取立屋のあれこれを知りたがる理由とは? 接点、平和島静雄、露西亜寿司、裏と表の世界の境目、ミル貝が好物、シャンプーはツバキ、右の肩甲骨付近に傷跡、視力零点九、その他十以上の項目が浮かんで消えたが、決定的な交わりが無い。とはいえ大トロ十一貫分の情報は差し上げるのが情報屋、本名住所電話番号出身地血液型誕生日諸々のプロフィール、追加は三つまで無料で受け付けます。
 店に新しい客が入ってきた、渡草や門田といったワゴンの面々。サイモンが接客に向かう間を除いてのべ五分で全て話し終えて、大トロをもう一貫口に入れる。美味。二個続けざまに食べて、目線はサイモンを観察しつつ、何故田中トム、表情からは察せられない、解せない疑問は早めの解決に限る。
「なんで田中トムなの?」
 眉がぴくり吊りあがる、微細な狼狽を折原は当然見逃さない、どうして、追い詰める、もう一息。
「Шила в мешке не утаишь.」
「Любопытной Варваре на базаре нос оторвали.」
 錐は袋に隠せない、ロシア語でからかえば他人のことをあれこれ知ろうとするななんて返すから、君がそれを言う訳、と面倒になって日本語で返す。流石にサイモンは口を噤んで、一息、奥の席で狩沢と遊馬崎が騒いでいる、渡草が止めに入る、騒々しい中で彼は呟き程度の音量で、言う。
「故郷のラヴァーに、そっくーりよ」
 頬を染めるなんて似合わない仕草のサイモンが、余りに平凡で折原は面白くなく大トロを口にした。
作品名:大トロ十貫で良いよ 作家名:m/枕木