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この箱型世界で心中しようか

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苦しんでいる子どもがいる
みえないキズ、手当てもされず
どんどんどんどん苦しくて
でも

いちどだって泣かなかった
いちどだって泣かなかったの




「泣きたいですねえ」
ぽつりと、うつつと、まぼろしをさ迷うあの人がそう言葉をこぼした。
泣きたいと言葉をこほしてしまった。
僕はそのことを今も忘れていない。大事なことだったからじゃない。どうでもいいことだったからだ。
そうだろう、結局。
そんなものだろう、結局。自分にとって本当にどうでもいいことが最後まで残る。魂に刻み込まれたように離れなくなる。

淘汰されて残るのは強いものだが、記憶はろ過だ。安全なものばかり穏やかなものばかりのこる。
そしてろ紙にくるまれた記憶があるということだけ、知るのだ。カッターの刃を棄てる時ガムテープを巻くのと一緒。鋭い断片を持って切りつけてくる鮮明な記憶などとてもじゃないが持っていられない。

だから僕は覚えていない。あの人がボンゴレ10世の訃報に直面した、その瞬間を。

「泣きたいですねえ、とても」
僕が覚えているのはその訃報からいくらかたった時間。あの人が泣きたいと言ったこと。

よく悪魔と神と同列におかれた人だった。狂人とも道化とも称えられた人だった。六道輪廻のめしゅうどでありながら、物質世界の崩壊に挑んでいた。
そのどれをとっても間違いではない。


それでも僕はあの人をわかっていたから。
あの人が、わざわざろ紙にくるまれる、むき出しのカッターの刃を取り出しては握りしめて血を見ては泣きたがっていたのをわかっていたから。

くるしいですね、と言った。
忘れられなくてわすれたくなくて、くるしいですね。
あの人は、やっと僕に気付いたように振り向き、片方の眉を上げてから、微笑った。
微笑って、ええと言った。
ええ、くるしいです
ご覧なさい、とうとう来てしまった。グイド・グレコ!
ようこそ

「僕が泣いたって、もう
喜ぶやつばかりの世界へ!」