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間違いではありませんか

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ああ。と思った。ああ。今まで僕は何をしていたんだろ!手に持っていただけの書類を綺麗なだけの床に放る。白い紙と白い床のグラデーションが白蘭の足元に、花のように広がる。誰かの―――自分より上の人間はいない。なので部下の―――数時間分の労力を潰して出来た芸術作品も、今白蘭の頭にはなんの感銘も与えなかった。仕事よりも呼吸よりも、重大なことが目の前にあった。白い床の上の、白いソファ。その上。

 沢田綱吉が横たわっていた。それ以外の何者でもない彼が、横たわっていた。
 
 白蘭は少し笑いたくなった。おかしいな、ちゃんと、ちゃんと、息を止めてあげたのに。
少し悔しくなって、でもやっぱりおかしくて、笑いながらソファに歩み寄る。真上からソファを除きこむと、真正面の顔が見える。
茶色のチョコレート色の髪はソファに広がっていて、肌は温かいミルク色で、目は髪より少し濃い睫と、マシマロみたいな瞼の中に隠されていた。
 表情は、何の陰りも無い。でも笑顔でもなかった。無表情。きっとそうだ。
 それなのに自分が作る笑顔より、笑顔だった。

 確認した途端、白蘭の脊髄が震えた。
腰から下が一気に赤ん坊だった時を思い出したのか、立っていられなくなった。
ガクン!ガクン!と痙攣が止まらなくて、手が崖の淵を掴んでいるようにソファの背をわし掴む。
 本当に崖だったらどれだけ幸せだったか。
先ほどから全く役立っていなかった耳がハッハッと音を伝えて、それでようやく、自分が呼吸をしていなかったことに気付いた。
 小脳は今、何かしらの機能障害を大脳に訴えているかもしれない。けれど。残念ながら、今部屋に毒ガスがばら蒔かれても、多分自分は何も出来ない。
 
 これだけ、これだけ細胞が悲鳴をあげているのに、白蘭の眼球だけは正常に働いていた。世界を半分しか見れないのに、その全てが沢田綱吉の顔で埋まっている。
 頭の中で、それなりに大事に思えてきた情報や、それなりに興味を覚えていた情報が一気に失せたのに、細胞の一つ一つが飽和して止まらない。
 
ああ、これはあれだ。きっとあの時の感覚に似ている。んだろう。
最長のガラガラヘビは、平均時間は22時間55分。最短のチンパンジーは、10秒から15秒。の、行為。なら人間は?
振るえてない場所なんて、もう視線しかなかった。体内には存在しない。

 ああ!もういい!息なんか止まればいい!離れたい。呪われた赤子?違う。なによりも、今呪われているのは自分だ!





 彼が生きている。それだけで
僕は、こんなにもこんなにもキラキラと、

絶望している!
作品名:間違いではありませんか 作家名:夕凪