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さよならをいいなさい

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電車の中、ここで降りたらどうなるのだろうと雲雀は思った。



こもった空気を轢くように前進する車体。
漆黒めいた灰色の空洞の中、味気ない光の列が流れていく。その様は、安っぽい宇宙空間を安っぽい宇宙船が芸もなく走っていくように思えて仕方がなかった、もうずっと。


もうすぐ地下から地上へと切り替わるラインに入る。そうなると電車はスピードが落ちる。地上に出たとたんこの安っぽい宇宙船は強風のためスピードを見合わせて運転する。そんなアナウンスをはじめて聞いたとき、雲雀はバイクを買おうと思った。単車で風に煽られることを選び、電車を厭うことを決めたのだ。


その電車に雲雀は今乗車している。
そして降りるかどうか考えている。
嫌いだからということではなく、下車する駅だからでもなく、向かいの扉にもたれる茶色い頭の少年から、
降りるかどうか答えを出そうとしている。


―――この少年の人生に関わる道から降りる。


降りる?
まるで今が至上最高の人生のような。絶頂であるかのような表現だ。冗談ではない。
これは、どう考えても寄り道だ。


雲雀と少年とまばらな人がいるだけの車内で。
座れるのに二人とも座らない車両の中で。
冗談ではないと、雲雀は考える。
そもそもが中学からの不本意な付き合いである少年は、ずっと横顔をさらしている。
色素の薄い眼は、自然光が差し込む中、横から見るとガラスのようだ。



光?―ああ。

「もうすぐですね」
ガタンゴトン、に混じって滑り込む声は消えそうで、でもはっきり聞こえた。
とうとう地上へと這い出した電車は、灰色の空と思いの外緑が残る土手沿いを走っていく。

わずかな光でも、あたれば全体のトーンが薄くなってしまう色素を、そういえば少年は嫌がっていた。弱く見えて厭なんです、そういってすねた。
少年の色素は遠い遠い異国の、血の証。
その証が少年から選択肢を奪ったからではなく。
単純な好き嫌いの問題で嫌いだといった。
雲雀が己の意志で動かせない電車を嫌がったのと同じように嫌いだといった。

「もうすぐですよね」
「…何が」
少年の横顔がこちらを向いた。なみもり、そう呟いて口の両端が上がる。あと2駅です、だから。

「だから?」
「だから、次俺降りるんですが」
降りて乗り換えるんですが
一緒に降りませんか?

その誘いと同時に少年側のドアが開く。
そして雲雀の返事を待つことなくホームに降り立つ少年。それも一瞬。
手首を掴まれ再び体は車内へ。ドアが閉まる。
そしてドア越しに、少年は雲雀の顔を見た。見開いた目で見つめた少年がようやく現状を理解できたとき
電車は少年をのせて終点へと向かった。景色が流れていく。



一つ手前の駅で降りた雲雀は、ベンチに腰かける。
おそらくこれは少年、沢田綱吉が考えもしなかった展開だ。一緒に降りませんかといいながらまるで期待していなかった沢田綱吉。今頃きっと雲雀をののしっている沢田綱吉。だって沢田はあの街に帰れない。もうあの街には中身が空っぽの沢田綱吉のお墓がある。だからきっと沢田は綱吉は誰への言い訳か寝過ごしたふりをして反対ホームの電車に飛び乗るだろう。そしてあくびを一回本気でしながら、潤む目に並盛の文字を刻みつけるのだろう。



雲雀はそう思った。
きっとそうだろう。と思いながら雲雀は待った。沢田の乗った上り電車か、新たな下り電車か。
作品名:さよならをいいなさい 作家名:夕凪